入院生活スタート
2017年7月19日、阪南中央病院での入院生活がスタートしました。阪南中央病院での入院の主眼は二つ。
ひとつは、アトピー患者のステロイド、プロトピック、保湿剤からの離脱。
もうひとつは、患者自身が疾患と上手に付き合っていく生活の方法を身につけるというものです。
入院初日に、おおよその入院期間が佐藤先生により決定されます。現在の病状をスタートとし、そこから日常生活があまり困難でなくなる状態までの回復に要する期間です。私の場合は約50日となりました。しかし、これは病状の回復状況により、遅くも早くもなるとのことでしたので、私は自分自身に対する目標として、8月いっぱいでの退院(入院期間約40日)を目標に入院生活に取り組む決意をしました。
日常生活の手引き
脱ステロイド療法は、先の記述の通り、外用剤は基本的に何も使わない治療となりますので、日常生活での振る舞いが重要な要素を占めます。ですので、入院初日に、日常生活においての重要事項をもう一度確認するために、その『手引き』が渡されます。以下、阪南中央病院入院時に手渡される『脱ステロイド療法を受けられる方へ 〜日常生活の手引き〜』を引用し、かつ私が入院生活で実際に行っていたことも併せながら、ポイントをまとめさせていただきます。
1.皮膚はとてもデリケートで、ストレスや環境の変化によっても治りが遅くなってしまいます。
・症状が悪くなっても恐れない
全身の浮腫と赤み、黒ずみ、黄色い液が出る、いろいろな大きさの皮膚が剥がれる、夜も眠れないようなかゆみがある、首がひび割れて痛くて曲げられない等、症状は様々です。ステロイドやプロトピック 、保湿剤を中止してからしばらくはひどい状態になります。しかし、個人差はありますが徐々に良くなっていきますので、悪化を恐れず、心にゆとりを持ってお過ごしください。必ずキレイになります。
・掻いてしまっても悔やまない
脱ステロイド療法中は、激しいかゆみが起こります。かゆみ止めの薬を飲んでも抑えきれない場合もあるので、どんな人でも掻いてしまいます。
ちなみに私は、抗ヒスタミン剤である『エピナスチン』を就寝前に内服していましたが、効果はほぼ無いように感じましたし、実際佐藤先生からも、「気休め程度の効果しか期待できない」と言われていました。
掻かない方が早く治りますが、掻いてしまったとしても自分を責めないでください。皮膚が乾燥し始めると、だんだん掻いても傷つきにくくなるので、皮膚が強くなっていくことがわかります。
私は現在、退院から約10ヶ月経ち(執筆時2018年5月頃)、軽いリバウンドの時期を迎えておりますが、寝ている時かなり掻いた意識があっても、傷は入院時と比べて20分の1程度の軽い傷しかつかず、皮膚がかなり強くなっている実感があります。抗ヒスタミン剤は今でもたまに服用しますが、離脱症状が軽くなるのに比例して、効果も出てきます。皆様が思っている以上に簡単で効果があるのが、爪を切ること。週に2〜3度は爪を切り、ヤスリをかけるようにしてください。
2020年12月現在、退院から3年ちょっとですが、現在は抗ヒスタミン剤も一切飲んでいないですし、寝ているときに掻き壊すことも、落屑もほぼありません。
2.水分制限について
・水分制限の目的
血液の蛋白が薄くなることと、浸出液が出やすくなることを防ぐためです。喉が乾くからと思いのままに水分を摂ったり、痛みやだるさによる食欲の低下から水分の多い食べ物を摂る回数が増えたりすると、低蛋白血症を進行させてしまうこととなり、掻いた傷が治りにくくなるばかりでなく、浸出液が出やすくなってしまいます。このため、水分制限が重要となります。特に夜間の水分摂取は皮膚がむくみ、浸出液増加の原因となるので控えましょう。特に顔や胸で起こります。
成人では1日約2500mlの水分が必要です。これは食事に含まれる水分量も含まれています。食事以外で摂取してもいい基準水分量は、入院初日に佐藤先生から決定されるのですが、私を含む入院患者(男性)のほとんどが1500mlでした。1日の食事外水分量は毎日記録していました。
運動時に発汗した水分量は、追加で摂取する必要があります。ですので、運動前と運動後に体重を測る必要があります(これは続けていると、汗やシャツの濡れ具合でだいたいどれぐらいの水分摂取が必要かわかるようになります)。
計算式は、減った体重×0・9です。仮に、運動前の体重が60キロで、運動後の体重が59・5キロであった場合、追加で摂取する水分量は、500×0・9=450gとなります。
3.食事について
・浸出液、かさぶた、落屑の多いときは、体からタンパクが失われています。新しい皮膚再生のためには、高タンパクの食事が必要です
成人の1日タンパク必要量は80gですが、上記の場合はこの1・5倍を目安に摂取しましょう。特に、動物性タンパクの摂取が望ましいです。
・塩分を控えましょう
塩分を摂りすぎると、喉が乾き余分な水分を取りたくなります。おかきやポテトチップスなどのスナック類や、ふりかけ、漬物、梅干しなどには塩分が多く含まれています。できるだけこのような塩分の多いものは控え、間食ではチーズ類を摂取するのが望ましいです。
・その他注意すること
糖分を摂りすぎると太る原因となります。太ることで皮膚に負担がかかるため注意しましょう。ごく少しのお菓子、アメ、チョコレートなどでは湿疹は悪くならず、問題になりません。
・病院食、栄養について
ビタミンは、皮膚の粘膜等に上皮細胞の新陳代謝を促し、正常な働きを維持するのに役立っています。鉄は、血液中の酸素を運ぶ血色素であるヘモグロビンを作るために必要です。カルシウムは、神経機能を抑制するのに役立ち、強い骨を作るためにも必要です。マグネシウムは、カルシウムと一緒に摂ることで穏やかに神経筋を弛緩させ、就寝時の眠りを促す可能性があります。亜鉛は、適量の場合免疫系を高めることができます。
病院食は、これらの栄養を計算して提供する治療食ですので、好き嫌いをなくし、基本的には病院食を完食するよう頑張りましょう。そうすればサプリメントは不要です。外食は基本的に塩分濃度が高いので、なるべく控えるようにしましょう。
4.入浴について
・入浴後の皮膚乾燥を恐れない
入浴は消毒の代わりになりますので、痛みが強くなければ行いましょう。空気の乾燥する季節では、入浴頻度を減らします。健康な人間の皮膚には普段から細菌がたくさんいますが、それぞれがバランスを保っており、悪い菌だけが増えすぎるということはありません。しかし、皮膚に亀裂があったり、皮膚が浸出液でジクジクしていると、そのような箇所が悪い菌の病的な増殖場所になりやすいです。また、汗の成分に細かいほこりなどが付着すると同じことが起こりやすくなります。こう言った症状を抑えるため、入浴により細菌が増えにくい状態を作り出します。
・石鹸について
保湿作用の少ない固形石鹸を使うようにしましょう。薬用石鹸やボディソープは、保湿作用や皮膚刺激のあるものが多いので避けたほうが無難です。これまでに調べたところ、多少香りがあっても、脱ステロイド中に安心して使用できる保湿作用の少ない固形石鹸には以下のものがあります。
・入浴方法
患者の症状によって異なります。入院中は、感染症防止のためシャワー浴のみとなります。シャワーの勢いは、強くない方が皮膚には優しいです。時間は2〜3分。石鹸を使用した時は1〜2分長くしてください。長時間だと皮膚はふやけて掻き傷がつきやすくなったり、身体が温まることでかゆみを引き起こしたりします。
石鹸を使って体を洗う場合は、必ずタオルで石鹸をしっかりと泡立て、優しく撫でるように、あるいはトントンと優しく叩くようにして洗います。カサブタや浸出液を綺麗に洗い流そうとしてはいけません。顔は最も症状が強く出る場所の一つです。体を洗う時と同じ固形石鹸を使い、よく泡立て、優しくトントンと叩くようにして洗い、キレイに洗い流しましょう。洗った後、浸出液が入浴前より増加していたら、それは強く洗いすぎですので注意しましょう。濡れた体を拭くときは、タオルでそっと押さえるように水分を取りましょう。
5.衣類について
・刺激の少ない綿や絹素材を選びましょう
文字や絵柄がプリントされたものは、かぶれ(接触皮膚炎)を引き起こす原因となるので避けましょう。ジーンズや細身のパンツは、皮膚をこする原因となるのでやめましょう。下着は吸水性の良い柔らかい綿が良いです。下着は裏返しにして着用すると、縫い目や素材の凹凸が肌に触れないため、皮膚への刺激が少ないです。
・清潔なものを身につけましょう
浸出液や血液で汚れた衣服は洗濯しましょう。汚れていない下着は、乾燥の季節では2〜3日着ることも可能です。
洗剤は通常使用量の7〜8割に減らしてください。すすぎは十分に行い、柔軟剤など洗剤以外のものを使用するのは避けましょう。
・厚着をせず、通気をよくしましょう
温暖、発汗により皮膚症状が悪化しやすくなります。また、肘や膝の関節は皮膚と皮膚が直接触れるため、汗が溜まりやすくなりますので、衣類の袖や丈は、発汗の多い時期でも、その汗を吸収するよう長めで通気性の良いものが望ましいです。
・袖は5〜6分丈
・丈は膝下3〜5センチ
・締め付けないようにしましょう
ウエストや袖先、丈先など、ゴムやボタンにゆとりを持たせましょう。
6.日常生活について
・昼型生活に戻す
日常生活が昼夜逆転している場合、皮膚の治りが遅くなってしまいます。細胞の生まれ変わりに必要なホルモンは、22時〜2時の間に分泌され、皮膚の再生に大きく関わってきますので、夜はぐっすり眠るという習慣をつけましょう。かゆみがひどくて眠れないときは、必要な期間のみ本人の希望で安定剤や睡眠薬を飲んでいただくことがあります。睡眠薬の服用は耐性がついてしまう可能性や、深い眠りについてしまうゆえに、睡眠中の掻き傷がひどくなってしまう危険性もあるため、医師との相談が必要です。
・顔からの浸出液を減らすための頭部ベッド挙上
顔や首から浸出液が出ているときは、その量を減らすためベッドやまくらなどで上半身を持ち上げて眠るようにしましょう。
・顔はたたかないようにしましょう
顔が痒くても、目のまわりや頬は決して叩いたり、強くこすったりしないようにしましょう。結膜炎や白内障、網膜剥離になる危険性があります。
浸出液が出ているときは、ティッシュなどで拭き取らず、ガーゼを当て、浸出液が固まるようにしておきましょう。なぜなら、ティッシュで拭き取ることが皮膚に刺激を与え、治りを遅らせてしまうからです。鱗屑、かさぶた、くっついたガーゼは、無理に剥ぎ取ろうとせず、自然に落ちるのを待ちましょう。
・ベッド周りの掃除について
毎日生活する環境を清潔にすることが重要です。ベッドの周りはこまめに片付け、シーツ交換は浸出液が多いときは毎日交換するようにしましょう。落屑は毎日キレイに掃除するようにしましょう。
・日焼け予防
急に強い光に長時間当たると、皮膚症状を悪化させる原因となります。外出時は長袖、長ズボンを着用したり、帽子、日傘をさすなどして、直射日光を強く浴びないようにしましょう。冬季に外出をする場合、長時間冷たい風に当たると軽いしもやけになるので、マスクなどをして頬周囲を保温しましょう。
7.リハビリ(理学療法=運動)について
・リハビリの目的
運動により身体の新陳代謝が活発になり、血行の促進を促すことが皮膚の改善につながります。また、症状が良くなり、日常生活に戻って仕事や運動を行った際、通常勤務の負荷でも過労となり、皮疹の悪化が起こりやすい。このような社会復帰に障害をもたらす可能性を減らすためにも、普段から負荷にならない程度の運動を心がけましょう。
・リハビリを開始する時期
運動を始める時期としては、身体の大きな関節(首、肩、肘、膝、大腿の付け根、手首など)のひび割れが少なくなり、動かしても痛くなくなった頃です。
・リハビリの内容について
ウォーキングや柔軟体操(ストレッチ)くらいから始めるのが良いでしょう。慣れてきたら、脈拍120/分を目安に早歩き時間を長くしましょう。30分続けられるようになることが目標です。やりすぎ(オーバーワーク)は皮膚状態を悪化させますので、計画的に進めて行きましょう。
運動時の脈拍を測定するために、安静時の自分の脈拍を図る練習をしましょう。脈拍の図り方は、まず手のひらを上に向け、親指側の手首に反対側の人差し指、中指、薬指の三本を垂直に当てます。脈拍を感じたら15秒間数え、4倍すると1分間の脈拍になります。
個人的には、アップルウォッチ等のスマートウォッチがオススメです。脈拍はもちろんのこと、ウォーキングやランニングのキロ数や消費カロリーなど、健康的な日常を送るための様々な情報を管理し、教えてくれます。
以上7つが、入院生活および日常生活において意識して守るべき項目です。多くの項目は、誰にでもすぐに実行できることだと思いますので、しっかりとひとつひとつ着実に行っていくことが重要です。