ゴールデンタイムの質を高める2つのスイッチ
では、どのようにして睡眠ゴールデンタイムの質を高めるかということですが、これには以下の2つ、『体温』と『脳』のスイッチを入れることが重要です。
体温スイッチについて
体温には、体の内部の体温である『深部体温』と、手足の温度である『皮膚温度』の2つがあります。深部体温は、日中が一番高く夜間に低くなり、 逆に皮膚温度は、日中が低く、夜間に高くなります。健康な人の場合、入眠前になると皮膚温度が高くなるのが一般的なのですが、これは皮膚温度を上げ、手足に拡がる毛細血管から熱を放出することにより、体の内部の深部体温を効率的に下げているのです。
では、なぜ深部体温を下げるのかというと、それが身体における入眠のサインになるからです。ポイントは皮膚温度と深部体温の差を縮めるということ。そのためには、皮膚温度を上げ、手足から熱を放出し、深部体温を下げる必要があります。
では、具体的にどのようにして深部体温と皮膚温度の差を着実に縮めれば良いのか。
有効な方法として、まず最初に挙げることができるのが『入浴』です。体は筋肉や脂肪といった遮熱作用のある組織で覆われており、なおかつ深部体温は自律神経の働きにより一定に保つようになっているため、簡単には変動しません。ですが、入浴は深部体温を上げるのに重要な役割を果たします。
スタンフォード大学睡眠生体リズム研究所と秋田大学が協力して行った実験データによると、40度のお風呂に15分間入った後で深部体温を測定すると、約0・5度の上昇を確認できました。深部体温は、『一時的に上がる』ということが非常に重要で、上がった分だけ大きく下がろうとする性質を持っています。入浴で深部体温を意図的かつ一時的に上がることにより、入眠時に必要な深部体温の下降がより大きくなり、熟睡につながるのです。
0・5度上がった深部体温が元に戻るまでの時間が約90分。入浴前よりさらに下がっていくのはそれより後になるので、就寝90分前に入浴を済ませることにより、その後さらに深部体温が下がっていき、皮膚温度との差も縮まり、スムーズな入眠を獲得することができるのです。
健康な方であれば、この方法を実践することはなんの問題もないのですが、脱ステ、脱保湿療法中にあっては、長時間の入浴は保湿することと同じであるため、オススメできないのは先に記した通りです。
この方法をどうしても取りたい方は、一度担当医に相談することをオススメします。
ちなみに私は、お風呂や温泉が昔から大好きで、入浴タイムを心身共にリラックスさせ、気分をリフレッシュする上で重要な時間としていました。家での入浴時間(風呂場に入ってから出るまで)も約30分、温泉に行ったときは1時間ぐらいは普通に入っていました。阪南中央病院での初診時、佐藤先生にこのことを告げると、
「長時間の入浴はオススメできないが、風呂場での時間があなたにとって精神的に重要な時間であるならば、それを削る必要はありません」
とのことでしたので、バランスを取ることが重要であるかと思います。
脱ステ時に有効な方法は?
しかし、ここで悲観するのはまだ早いです。脱ステ、脱保湿療養中で入浴は避けたい、あるいは忙しくてゆっくり入浴する時間がない。そんな皆さんでも実行できる対処方法がちゃんと存在します。それが『足湯』です。
入浴すると体は熱を放散しますが、それを主導しているのは、表面積が大きくて毛細血管が発達している手足です。
ですので、足湯で足の血行を良くして熱放散を促せば、入浴と同等の効果を得ることができるのです。
入浴は主に『深部体温を上げるアプローチ』で、体温が大きく上がって、大きく下がる分時間がかかりますが、足湯は主に『熱放散のアプローチ』。体温の上昇は大きくありませんが、その分深部体温を下げるのに貢献してくれますし、寝る直前でもかまわないというのが大きな利点です。
もう1つ、体温スイッチとして挙げることが出来るのが『快適な室温』です。
室温が高すぎると必要以上に汗をかいてしまいます。入眠後は自然と体温が下がりますが、その上に発汗による過剰な熱放散があると、体温が下がりすぎて風邪をひく原因となります。また、夏の熱帯夜のように室温と湿度の両方が高すぎると発汗しなくなり、手足からの熱放散が妨げられることにより体の中に熱がこもり、眠りが阻害されてしまいます。
これとは逆に、秋や冬になって室温が低すぎると、血行が悪くなって熱放散が起こらず、この場合も眠りが阻害される要因となりますので、部屋が寒すぎるときは室温を上げることも必要な対処方法の1つです。
適温は個人差や地域差が激しく、住んでいる環境によっても異なりますので、自分にとって快適な温度を知ることが重要です。
脳スイッチについて
現代は24時間営業の店も多く、都会になればなるほど夜であっても電飾や音楽で明るく賑やかです。家にいてもスマホやパソコン、テレビなど脳を刺激するものがたくさんあります。日中受けたストレスや肉体的な疲労も脳を活動モードにするので、現代人の脳は終始興奮状態にさらされる危険があります。
脳が興奮状態にあると体温が下がりにくくなるため、寝つきが悪くなり、眠りも浅くなってしまいます。旅行先でよく眠れなかったという経験を持つ人は多数いるかと思いますが、これは環境の変化が脳に刺激を与えて、入眠が妨げられるのが原因です。
体温スイッチについては先に述べましたが、どれだけ環境を整えても脳が覚醒状態にあれば良い睡眠は得られません。眠る前に意識して脳のスイッチをオフに切り替え、休息状態に持っていくことが大切なのです。
脳スイッチをオフにするために有効なのが、『単調』と『退屈』です。
風景が変わらないまっすぐな道路を長時間運転していると眠たくなるという経験は、多くの方がされたことがあるかと思います。単調な状況は頭を使わないので、脳は考えることをやめ、退屈して眠くなります。つまり、この『単調な状態』が、脳のスイッチをオフにするのです。
ここで効果的な方法は、夕食後や入浴後から少しずつでも『刺激のない状況』を作っていくということです。本を読むなら、ハラハラドキドキのミステリーやサスペンスなどは控えたほうが無難です。寝る前は頭を使わずに、リラックスして楽しめるようなことをするようにしましょう。また、いつもと同じ時間の入浴や就寝時間、就寝スタイルなど、『いつもと同じパターン』は単調さにつながるのでこちらも効果的です。
寝る前に軽い運動をすることも、体温スイッチのオン、オフに効果的です。しかし、行き過ぎると交感神経が刺激され逆効果になってしまいますので気をつけましょう。
脳のスイッチをオンにしてしまう、最も身近なものといえばスマートフォンでしょう。スマートフォンやパソコンなどのLEDディスプレイやLED照明には、紫外線に近く、強いエネルギーを持ち、眼や体に大きな負担をかけると言われる『ブルーライト』が多く含まれており、就寝前に多くのブルーライトを浴びると、脳は紫外線を浴びている(日中である)と認識し、眠りを促す睡眠ホルモンである『メラトニン』の生成を抑制し、眠気が抑えられてしまいます。
また、ブルーライトには交感神経を優位にする働きもあるため、脳が活動モードに入り、スムーズな入眠を妨げてしまいます。
スマホやパソコンはこのブルーライトの影響だけでなく、それを操作することでも脳を強く覚醒させてしまうので、睡眠ゴールデンタイムの質をあげるため、就寝2時間前にはこれらの機器を触らないようにすると良いでしょう。
副交感神経を優位にし、脳をリラックスモードにするものとしてアロマやヒーリングミュージックも効果的です。『ラベンダー』や『カモミールローマン』の香りは誘眠作用があることで知られていますし、『ユーカリ』や『バジル』には、脳をリラックスさせる効果があると言われています。
個人的オススメ 〜禅(マインドフルネス )〜
私は就寝前に、以前から興味があった禅(マインドフルネス)に取り組むようにしました。アップル、ピクサーの創業者であるスティーブ・ジョブズが負のエネルギーを抑制するため、禅に取り組んでいたのは有名でしたし、グーグルやゴールドマンサックス、P&Gというような優良企業でも、禅が組織的に取り組まれていたため、以前より興味を持っていました。
企業が禅を取り組む理由として一番大きなものは、客観的にあるがままを受け入れ、思考を明瞭にし、最も重要なチャンスに集中する能力を養うためと言えます。そして、このような集中力を養うためには、1日の中で生じる不安や混乱、プレッシャーを取り除き、完全に脳をリラックスさせるため、禅、内省を習慣的に行うことが重要だと言われています。
禅と聞くと堅苦しいイメージを抱く方もいるかと思いますが、決してそんなことはありません。私の場合、ただあぐらをかいて座るだけです。私は大体就寝前の30分間禅を組むようにしていますが、禅には『単調』による脳のスイッチオフ、リラックスモード突入による副交感神経の優位化と、質の良い睡眠を取るための重要な要素を両方とも備えていると、続けているうちに気づきました。ヒーリングミュージックを聴きながらや、アロマをたいて禅を組むのも良いでしょう。難しいことは何1つありませんし、身ひとつでできるため、睡眠のゴールデンタイムの質をあげるため、個人的にはオススメの方法です。
睡眠スケジュールを立てる
日々のチェックリストの中に、起床時間と就寝時間の記入欄を設けていますが、眠りにおいてスケジューリングはとても大切です。睡眠の質を確保するために、まずは起床時間を固定しましょう。起床時間を固定することが、就寝時間セットすることにつながるからです。睡眠を促すホルモン『メラトニン』は、起床後14時間〜16時間後に最も多く分泌されますので、これを考慮してパターンを組み立てましょう。
起床パターンが出来たら、次は就寝時間の固定です。ポイントは、たとえ翌朝早く起きる日でも、早寝をしないこと。いつも通りの時間に寝るのを心がける方が、結果的に睡眠の質をあげることにつながります。こうして、何時に起きて、何時に寝るというパターンが脳にセットされることで、睡眠のゴールデンタイムもパターン化されるのです。
以下に、睡眠ゴールデンタイムの質を高めるための方法をまとめておきますので、参考にしてください。
睡眠の質を高める方法まとめ
・入浴は就寝90分前に行う。足湯なら就寝前でも可。
・自分にとって快適な室温を保つ
・就寝2時間前は、スマホ、パソコン、テレビなどは見ない、触らない
・眠る前のルーティンワークを作る(決まった時間に風呂に入る、決まった時間に
いつものパジャマに着替える、読書、落ち着いた音楽を聴く、禅を組むなど)
・起床時間と就寝時間をパターン化させる