ステロイド標準治療における症状改善率
アトピー性皮膚炎患者に標準治療を行なった際、症状の軽減割合を見るためのデータに『古江論文』というものがあります。
対象患者1271名に、6ヶ月間ステロイド治療を行い、どれぐらい症状が回復したかを示すデータです。発表者は、九州大学の古江増隆氏。厚生労働省アトピー性皮膚炎研究班長や日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎ガイドライン委員長を歴任された、いわゆる学会の権威です。
古江氏は、厚労省との関連やガイドライン作成の委員長であることからも、ステロイドをできるだけ売りたい側の人間です。本来この論文も、『ステロイドをもっと使わなければならない』というのが主旨だったようですが(あるいはそういう立場になった)、奇しくも標準治療では治りにくいということを表す結果を提供することとなりました。
2歳未満の症状改善率
上記の図6を見てください。これは、2歳未満のアトピー性皮膚炎患者の症状改善率を4つの象限で表したものです。
左上の象限は、2歳未満の最重症患者2名に標準治療を6ヶ月行なった結果、2名中2名(100%)が中等症程度まで回復したことを表します。右上の象限が重症者の改善率、左下が中等症患者、右下が軽症患者です。
この図を見てわかることは、重症患者の35%、中等症患者の42%、軽症患者に至っては92%が、標準治療による症状の変化がない、つまり治らなかったという驚くべき結果が表れています。しかも、軽症患者に関しては8%がステロイド外用薬による標準治療を6ヶ月も行なっているのにも関わらず悪化している、つまり、2歳未満のアトピー軽症患者は、誰一人として標準治療では改善していないのです。
2歳〜13歳までの症状改善率
図7は2歳〜13歳までの患者です。
効果なしおよび症状悪化率は、最重症患者で8%、重症患者32%、中等症患者で53%、軽症患者においては、またも100%という結果です。
13歳以上の症状改善率
続いて図8、13歳以上の患者における臨床試験で、効果なしおよび症状が悪化した割合は、最重症患者ではちょうど半数の50%、重症患者では46%、中等症患者では64%、軽症患者では100%となりました。
ステロイド標準治療の改善率まとめ
これら3つの臨床結果から読み取れるのは、大きく分けて2つ。
1つは、全ての年代において、軽症患者に対する標準治療は、良くても現状維持の効果しか期待できないということ。
2つ目は、年齢を重ねるに連れて、ステロイド外用薬の効果は薄れていくということです。
通常の感覚であれば、この結果を踏まえ、患者の症状改善策としてあげることができるのは以下の3つしかないと考えます。
1つは、ステロイド外用薬の量および使用方法を変える。
2つ目は、ステロイドの強度をあげる(最重症者は対象外となってしまいます)。
そして3つ目は、以前から声高に叫ばれる脱ステロイド、脱保湿療法の効果を検証する。
患者の身になって考えれば、3つ目の選択肢の有効性を検証することが、優先順位として1番上にくるはずです。重ね重ねこの方法を頑なにとらない皮膚科業界の倫理観、思考停止具合にはほとほと呆れます。というか、成人の難治化アトピーの原因は、ステロイド依存、過去の医療方針に問題があった可能性がかなり高い。であるならば、ステロイド依存に陥っている患者団体が民事訴訟を起こせば、ステロイド依存に苦しむ患者や、ごく少人数で業界からバッシングを受けながらも患者と向き合っている医師を救えるんではないでしょうか。
大きなムーブメントにまでなれば、日本皮膚科学会も治療ガイドラインに脱ステロイド、脱保湿療法を組み込まざるを得ない状況にまで持ち込むことができるのではないだろうか。そうなれば、正しい倫理観と正義感を持ちながら患者と向き合っているのにも関わらず、業界を離れざるを得なくなる深谷医師のような、潜在的には数多くいるに違いない(そう信じたい)、そんな医師を救済することにつながるのではないだろうか。
もちろん、中には患者としっかり向き合うことができ、体制と戦う胆力と患者を回復に向かわせる技術を併せ持った皮膚科医もわずかながら存在します。阪南中央病院の佐藤先生夫妻や、東京藤澤皮膚科院長の藤澤医師、埼玉上尾二ツ宮クリニックの水口医師などがその代表でしょう。しかし、脱ステを推進し、実行している医師が仮に日本で20人いたとしても、約7500人いる皮膚科医の総数からすると、わずかもわずか、たった0・3%です。嘆かわしさの極みと言ってもいいでしょう。いや、ちょっと待てよ。そんなに少ないってことは、やっぱり脱ステをしても良くならないじゃないか?と、流石にここまで読んでそのように考える人は少ないでしょうが、安心してください。先に挙げた佐藤先生夫妻、藤澤医師、水口医師、そして深谷医師らが、ステロイド不使用治療の症状改善率について、論文で発表されています。
ステロイド不使用治療における症状改善率
先の古江論文と比較しやすいよう、表の構成は全く同じにしてあります。
2歳未満の症状改善率
図9は、2歳未満におけるステロイド不使用治療による改善率を表しています。重症、中等症患者において、約5%の悪化率が見られますが、幼児は皮膚の代謝や成長スピードが早いからか、たった6ヶ月で皮疹がなくなっている患者数の多さが見て取れます。ステロイドを使った標準治療では、皮疹がなくなった患者がどの年代でもゼロだったことに比べると、これは大きな違いと言えます。
2歳〜13歳までの症状改善率
続いて図10、2歳〜13歳までの患者です。2歳未満、幼児の改善率があまりにも高かったので少し見劣りしてしまいますが、最重症、重傷者の改善率が高いです。中等症、軽症患者の現状維持率が高いのは、やはり年を重ねるごとにステロイド依存率が高くなっているからでしょうか。
13歳以上の症状改善率
最後は図11、13歳以上です。まず目につくのが、軽症患者がゼロだということ。脱ステ専門施設が日本には数えるぐらいしか存在しないことを考えると、軽症患者の受診率が低いことが考えられますし、軽症であるならば、自力での脱ステ、脱保湿療法も難しくはないでしょう。それより、成人アトピー患者の軽症率が低いというのであれば、これは大きな問題です。最重症患者が多い(私の入院中にも数人いらっしゃいました)ことを考えると、私が実際に見聞きした彼らの証言から考えても、ステロイド依存による影響は大きいと考えざるを得ません。
そして、先の証言を裏付けるかのように、13歳以上の最重症と重症患者の改善率が高いことは、もはや偶然とはいえないでしょう。主観的な意見となりますが、私が入院中に実際に出会った患者の皆様の回復具合から鑑みても、非常にリアルな数字と言えるかと思います。
ステロイド標準治療と脱ステ・脱保湿治療の改善率比較
では、さらにわかりやすく、これまでに挙げた標準治療とステロイド不使用治療の成績を比較して見ましょう。
図12は、標準治療とステロイドを使わない治療における症状の改善率のデータ(図6〜11)をグラフにしたものです。「このグラフは印象操作だ!」なんて言われないよう、高さも合わせ、先のデータをエクセルに入力したものをそのままグラフにしていますので、文句のある方はビル・ゲイツまでお願い致します。
このグラフを見て感じるのは、ステロイドを使わない治療の方が改善率がはるかに高く、特に幼児と成人においては、標準治療に比べ圧倒的に改善率が良いということです。これは、6ヶ月という期間が脱ステ療法に対して優位に働いているからだと考えられます。ステロイド外用による標準治療は対処療法ですので、短期的に皮疹に対して効果があるのは間違いありません。症状の重い方であっても、ステロイド強度が高いものをタップリと塗り、さらに密封する方法をとれば、かなり高い確率で、かつ素早く症状を抑えることができることは身をもってわかっています。しかし、期間が長くなればなるほど依存性、耐性が出てきますので、ステロイド外用剤を使い続けても症状が悪化、ぶり返してしまう。また、それがなくては日常生活もままならない身体になっていきます。
しかし、脱ステ、脱保湿療法は時間が経てばたつほど有利です。症状のピークは、薬を完全にやめてから1週間ほどが平均的と言われておりますので、何度も離脱症状は繰り返しますが、徐々に回復に向かっていきます。6ヶ月もあれば、症状の重い方であっても、全く薬を塗らない生活に慣れてくる頃かと思います。仮にこの調査期間が2週間であったなら、全く反対の結果となっていたでしょう。
これらのデータから見ても、ステロイドを使わない治療方法が効果的であることは、一目瞭然です。経済的においても、今後の人生を考えたQOL(クオリティオブライフ)改善に向けても、コストパフォーマンスが非常に高い治療方法なのです。