佐藤先生 vs 古江医師
余談になりますが、学会の《権威》であり、先の論文の著者である古江氏は、自らが築き上げた(受け継いだ)王座を汚そうとする佐藤先生のような脱ステ医がよほど気にくわないのでしょう。2011年の日本皮膚科学会中部支部学術大会において、古江氏とこのようなやり取りがあったと、佐藤先生がその様子をご自身のブログに掲載しております。以下引用。http://atopic.info/satokenji/2011/11/
日本皮膚科学会中部支部学術大会の報告
(前略)
「アトピー性皮膚炎診療ガイドラインでは、ステロイド外用剤とプロトピックの有効性と安全性を立証する文献は不提示である。ガイドラインに影響のある古江氏の論文(BJD、2003)では、6か月のステロイド治療を行い、治療開始時と終了時の皮疹の重症度比較をしている。重症度が改善した率は38%、変化無しは59%、増悪は3%で、治癒者はなかった。ステロイド治療では治りにくいことが分かる。
当院では治りにくい患者に脱ステロイド・脱保湿療法を行っている。その主要な内容は、ステロイド離脱、保湿離脱、水分制限、食事制限なし、運動、規則正しい生活、精神的ストレス削減、掻くなと言わないこと、爪切り励行、止痒剤内服である。脱ステロイド・脱保湿後に一次的な増悪の後、著明な改善がみられた3名の患者の治療経過を供覧する。ガイドラインに、ステロイド外用治療で治りにくいアトピー性皮膚炎患者の治療として、脱ステロイド・脱保湿療法を含めるべきであると考える。」
話の内容は大体以上の通りに行いました。(中略)そして、スライドの最後に、「アトピー性皮膚炎のガイドラインには『ステロイド治療で治りにくい患者に脱ステロイド・脱保湿療法は有効な治療である』を入れるべきである」と、更に「皮膚科入院施設は脱ステロイド・脱保湿療法を習得すべきである」を入れました。発表は制限時間より30秒ほどオーバーしました。
終わると、会場の中央から一人の先生が意見を述べるために私の真正面のすぐそばにあるマイクの前に出てこられました。何と古江増隆先生(九州大学医学部皮膚科教授、アトピー性皮膚炎診療ガイドライン最高責任者、上記の古江氏のこと)ではありませんか!。私は古江先生が会場におられることを全く知りませんでした。浜松医科大学皮膚科教授、大阪市立大学医学部皮膚科教授、岐阜大学医学部皮膚科名誉教授の少なくとも3名の方と尼崎医療生協病院皮膚科の玉置先生がおられるのは知っていましたが。
第一声は「詳しく検討していただいて有難うと言いたいところですが」といつもの紳士的な言い方が終わったとたん、
「脱ステロイドとはいったい何ですか、脱保湿とはなんですか」
怒鳴りこみの質問と言うか、突然まくしたて始められました。
「この論文はアクセプトされるのに3年かかりました。査読者の意見は、『日本のアトピー治療ではステロイド外用量が少ない。だから、成績が悪くて当たり前だ。』というものだ。この論文は治療成績がいい悪いということを言おうとしたものではない。ステロイド外用量の調査をしたのですよ。いいですか、大人や子供では6か月の平均でたった95gや45gしか使ってないんですよ(その場では145gとか言われたように思いましたが、原典を見て95と45にしました)。だから、もっと塗らなくてはならないんですよ。私の論文で成績が悪いと言っているが、ステロイドを塗ったら100%よくなると言う論文ぐらいいくらでもある。あなたは経過はどれだけ追ったのですか。何人の人が良くなったのですか。」
と何処で答えを言っていいのやら困るほどに早口でまくしたてられました。
入院患者ではですね、と答えようとすると、
「入院すればだれでも良くなることぐらい知らないのですか。そんなことは1900年の初め頃から分かっていますよ。」
と言われたので、
「ではいったん増悪するのはどう説明したらいいのか、説明できないでしょう」
と答えました。答えに窮したためでしょうか、何で言われたのか分かりませんが、
「いくら入院患者でどうのこうの言ってもだめですよ。」
と言われたので、「第1例目は外来患者ですが」と答えると一瞬詰まられました。しかし、
「ステロイドを止めたらアトピーが良くなると言っているがそんなことはあり得ない。」
と言われたので、
「私はこれまで一度としてストロイドを止めてアトピーが治ると言っていません、ステロイド依存性が治ると言っています、どちらかと言えば逆に、ステロイド依存性が治ればアトピーは出てくると言っているのです」
といいました。
ここで、発表の内容に対する質問で無いので、座長に、私がこのような発言は学会の場ですることではないように思いますが、というと、座長もうなずかれました。が、古江先生は脱ステロイドはけしからんなどと話し続けられました。たまりかねて、玉置先生が割って入るようにして、
「わたしもステロイドを使わないでほしいと言われる患者さんにはステロイドを使わない治療をします。ステロイドを使った治療もします」
と言われました。しかし、古江先生は、今度は
「脱ステロイドはステロイドを使う皮膚科医の治療を冒涜することだ。けしからん。皆さんそう思いませんか。」
と後ろを振り向いて賛同を得ようとしました。しかし、古江先生の期待に反して、賛同の声は一つもありませんでした。私が気付いた範囲では、一人だけ首を縦に振っておられました。古江先生が余りにもまくし立てられたので、ほとんどの聴衆はあっけにとられて返事を忘れたのかもしれませんが、私の感じ方からすれば、ほとんどの人は賛同されなかったような気がしました。座長に促されて古江先生は元の席へ戻られました。
(中略)
簡単な感想ですが、学会側はだいぶ焦っているようですね。だからテレビでプロアクティブ治療を頻回に宣伝するのでしょう。
という内容です。
それではツッこんで参りましょう!
まるでコントです。ツッコミどころ満載なのですが、まずは古江氏の意見の矛盾からツッこんでいきます。
『日本のアトピー治療ではステロイド外用量が少ない。だから、成績が悪くて当たり前だ。』
というくだりですが、古江氏は2011年に発表した自身の論文で、ステロイド外用料を増やしてもよくならない患者がいることを認めています(↓こちら)
https://apallergy.org/DOIx.php?id=10.5415/apallergy.2011.1.2.64
深谷医師も、この件について以下のように自身のブログでおっしゃっています。以下引用。
http://steroid-withdrawal.weebly.com
「コントロール不良群の患者の50%では、ステロイド外用総量が非常に少ない」の一文についてですが、幼児の50%値は、コントロール良好群20gに対してコントロール不良群30g、小児の50%値は、コントロール良好群40gに対してコントロール不良群60g、思春期・成人の50%値は、コントロール良好群75gに対してコントロール不良群1140gです。この値を見る限りは、「非常に少ない」とは言えないと思います。50%未満の内訳を見ればそうなのかもしれませんが、データの補足が欲しいところです。
先の学会でも、佐藤先生が145gと聞いていたりと記憶が曖昧なところからも、古江氏自身あまり覚えていない(あるいは自身が研究にあまり介入していない)様子が伺えます。続いて、
『この論文は治療成績がいい悪いということを言おうとしたものではない。ステロイド外用量の調査をしたのですよ』
↓
その結果、ステロイド治療の成績が芳しくないという証拠を世に発信した。
『入院すればだれでも良くなることぐらい知らないのですか。そんなことは1900年の初め頃から分かっていますよ。』
↓
それなら、依存や副作用の可能性が高い薬を使わない入院の方がいいに決まっている。
『「ではいったん増悪するのはどう説明したらいいのか、説明できないでしょう」
と答えました。答えに窮したためでしょうか、何で言われたのか分かりませんが、
「いくら入院患者でどうのこうの言ってもだめですよ」』
↓
答えられないため、話をどうにかはぐらかそうとしているが、完全に論理破綻し、訳のわからないことを言い出した。
『第1例目は外来患者ですが」と答えると一瞬詰まられました。しかし、
「ステロイドを止めたらアトピーが良くなると言っているがそんなことはあり得ない。」』
↓
さらに追い詰められ、全く事実無根の、討議に関係ないことを言い出した。
『「脱ステロイドはステロイドを使う皮膚科医の治療を冒涜することだ。けしからん。皆さんそう思いませんか。」と後ろを振り向いて賛同を得ようとしました。しかし、古江先生の期待に反して、賛同の声は一つもありませんでした』
↓
ロジカル(論理的)な議論が成されるのが当然の場所で、感情に任せた脅しというか泣き落としにかかるが、見事に惨敗。
と、私が会場にいたら絶対に笑いをこらえられない状況です。よくまぁこんなディベートに近いような場で、論理武装も全くせず戦いを挑んで来れるなぁとある意味恐ろしいですが、これはあってはならないことですし、私が最も腹を立てた部分です。
私はビジネスマンで、医学の世界は全くの門外漢ですが、このようにロジック(論理的に筋が通った考え)が全くなく、フィーリング(感情)に任せて行動するような社長が率いる会社が倒産してしまうケースを、数多く見てきました。過去の高度成長期やその後の安定期であれば、根性論や、経験、勘、度胸といったものも通用しました。
もちろん、現代においてもそういった要素は重要ですが、そこから抜け出せない経営者が今以て多いということが、日本の中小企業の生産性が著しく低い、及び倒産率が上がっている大きな理由の1つです。AIやビッグデータという技術が急速に発達していく現代において、そのスピードが今後さらに速まるのは間違いありません。
直接命に関わらないビジネスの世界においてもそうであるのに、人の命を預かる医学の世界において、フィーリングや権威が物を言うなんて、それこそ絶対にあってはならないことです。
『脱ステロイドはステロイドを使う皮膚科医の治療を冒涜することだ』
なんて驚くほどミニマムな発言をされておりますが、人の命を守る術を身につけ、権力まで獲得し、本来は先頭に立って医学のより良い未来を築かなければならない人間が、患者をみようとせず、権威を笠に着、感情論を振りかざすなんてことは絶対に許されるべきことではありません。それこそ、現在に至るまで人類のより良い未来のため、医学の発展に尽力してきた先人たち、そして人間に対する冒涜です。どうにか今後は、権威の上に反り返り過ぎてブリッジするのではなく、権威の上に正座し、医学の発展のため、その力を奮っていただければと切に願うばかりです。
脱ステロイド治療のメリット
少し余談が長くなってしまいましたが、ステロイドを使用する標準治療とステロイドを使わない治療における改善率は先に挙げた通りです。ステロイドを使わない治療法でも、標準治療に引けを取らない、あるいはそれを上回る結果が期待できるのです。
ですが、ステロイドを長く塗り続けてきた人ほど、離脱には時間がかかりますし、肉体的にも精神的にも辛い時期が必ずあります。しかし、今後の人生のことを考えると、身体的にも、経済的にも、絶対に乗り越えた方がメリットが大きいと言い切れます。
脱ステロイド治療の問題点
もちろん、脱ステ、脱保湿療法を行う上での問題点も存在します。医学的な問題点は、細菌やウィルスによる感染症が多いということです。さらに、それらの感染症に対しては、早期の対応が重要だということです。現に私も、痛みを伴うイボのようなものが未だ体のいたるところ(主に首や腕)にできます。一月に一回ぐらいのペースでしょうか。ほっといても治るということは少なく、むしろ増殖していきますが、『セフカペンピボキシル』などの抗生物質を飲むとすぐにひいていきます。
物理的な問題でいうと、ステロイドを使わない治療ができる病院(特に入院に対応している病院)が圧倒的に少ないことです。この問題を解消するには、佐藤先生が学会で言われたように、日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎治療のガイドラインに、脱ステロイド、脱保湿療法の項目が記載されないことには解消が難しいと思われます。
しかし、これは先の佐藤先生と古江氏のやりとりを見てもわかるように、現段階では実現可能性がかなり低い。その理由は、皮膚科学会がステロイド依存に対する治療を認めないどころか、先に挙げたように、自分たちの責任が明るみに出る前に、潰してもみ消してしまおうとしているからです。
脱ステロイド、脱保湿を皮膚科学会が認めるということは、これまでの自分たちの過ちを認めることと同じです。しかし、このような状態も今の現状が続くのであれば、いつかは皮膚科業界の罪と過ちが明らかになるでしょうが、もしそれよりも前に、ステロイドに変わる新薬がアトピー治療のスタンダードになってしまえば、ステロイド外用剤を巡る皮膚科業界の罪は、高い確率でもみ消されてしまうでしょう。
しかし、このようなことは多くのアトピー患者には知り得ないことですし、患者にとって重要なことはそんなことではありません。
患者にとって重要なこと、それはステロイドなどの薬に頼ることなく、健康的な日常生活を送ることができる状態にまで回復することです。そのために脱ステ、脱保湿療法が有効な治療法であるのにもかかわらず、それが認められないと言うのであれば、今私たちにできることは1つしかありません。
それは、私のように脱ステ、脱保湿療法により症状が改善した経験者や、それらの治療を望む人たち全員が、佐藤先生のように現場で戦う医師たちとともに、アトピー性皮膚炎のガイドライン改定に向けて行動する、声をあげると言うことです。これは、実現可能性の低いことでは決してないと考えますので、アトピーで苦しむ患者が一人でも少なくなるより良い未来のために、皆が団結し、ガイドライン改定に向け、行動していければと思います。
期待の新薬『デュピルマブ』について
アトピー性皮膚炎の治療薬として期待を集める『デュピルマブ』の製造販売が、2018年1月19日に承認されました。米国の臨床試験では、既存の治療が効かない中等症から重症患者が対象にも関わらず、約40%の患者の皮膚症状が、完全に消える及びほとんどなくなるという結果が出ました。用法用量は『成人に初回600mg、その後は1回300mgを2週間隔で皮下投与』となっています。副作用は注射部位反応や頭痛、アレルギー性結膜炎等目立ったものはありませんが、長期使用における安全性は判明していません。デュピルマブもステロイドと同じく対処療法になりますので、使用を中断した際には症状がぶり返す可能性が高く、長期的に使用する必要があります。
デュピルマブは患者自身が使用を選択することができるものですが、誰でもそれを選べるというわけではなく、
『ステロイド外用剤やプロトピック等の抗炎症外用剤による適切な治療を一定期間施行しても、十分な効果が得られず、強い炎症を伴う皮疹が広範囲に及ぶ患者』
という患者に限定されています。また、デュピルマブの治療反応は、通常投与開始から16週までには得られるため、16週までに治療反応が得られない場合には、投与中止を考慮しなければなりません。また、原則として本剤投与時には、アトピー性皮膚炎の病変部位の状態に応じて抗炎症外用剤を併用すること、保湿外用剤は継続使用することとなっています。
患者にとって1番の問題は価格でしょう。デュピルマブは、バイオテクノロジーを使って開発された『生物学的製剤』で、高額な薬として一躍有名になったがん治療薬『オプジーボ』も生物学的製剤の1種です。オプジーボほどではないですが、デュピルマブの投与1回分は約8万円。公的医療保険の適用対象となっていますので、3割負担の方で2万4000円。
投与間隔は2週間に1回となりますので、このデュピルマブの投与だけでも年間約60万円かかる計算です。それに、ステロイド外用剤と保湿剤を併用することが基本となっています。もちろん、デュピルマブを使用するかどうかは最終的には患者の判断になりますが、結局ステロイドや保湿も続ける必要があるのなら、何も現状は変わらないと私は考えます。ステロイドはもう効かないし、お金も有り余って困っているというような方は試してみても良いのではないでしょうか。