第4章

脱ステのススメ 15 第4章 〜脱ステへの決意〜

薬を出せば出すほど儲かる病院

 

ステロイド外用剤の副作用について、自分の納得のいくところまで調べた私は、ステロイド外用剤を使わない治療、いわゆる『脱ステロイド(以下脱ステ)治療』に踏み切る決心をし、次は脱ステ治療について調べて見ることにしました。

脱ステについてネットで調べたことがある方も多くおられるかと思いますが、私がGoogleで脱ステについて検索したとき、まず最初に感じたことは、ほとんどが個人の体験を綴るもので、脱ステを推奨している病院がいかに少ないということでした。では、なぜ脱ステを推奨している病院が少ないのかというと、それは病院の収益構造、儲けの仕組みを考えると明らかです。大きなポイントは以下の2つ。『点数制診療報酬』薬価差益』です。 

  

『点数制診療報酬』とは

 

 病院も他の企業と同じで、利益を生み出さなくては継続していくことができません。では、病院は一体どのように売上を立てているのでしょうか。それが1つ目のポイント、『点数制診療報酬』です。 

皆様も病院にかかられた際、請求書と領収書を病院からもらうと思うのですが、それが点数表記になっているのをご覧になられた方もたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。病院にとっての売上金額は医療費です。その医療費は、診察でかかる初診料・再診料、投薬(薬の処方)、注射、検査、画像診断など、様々な医療行為がポイントで構成されており、そのポイントに応じた診療報酬が病院の売上となります。この診療報酬は、政府が全国一律の公的価格を細かく設定しているため、病院は売上金額を自ら決定することができません。 

この診療報酬の計算方法ですが、救急救命センターのような高度で専門的な治療を行う急性期病院を除く多くの病院が、出来高払い制度を導入しています。この出来高払い度は、検査や処置、投薬など1つ1つの診療行為に診療報酬が支払われるため、医師は必要と判断した医療サービスを安心して提供できるというメリットがあります。しかし一方、医療サービスを実施するほど報酬が増える仕組みであるため、効率的な医療の実施や患者の早期回復のための診療内容などは評価されにくくなっており、入院日数の長期化や医療費の増加などに繋がりやすい制度です。 

つまり、薬を出せば出すほど投薬ポイントが上がるので、病院は売上を立てるためにも、薬を出した方がいいということになります。脱ステを推奨するということは、この投薬ポイントを限りなく少なくするということになりますので、病院の経営者からすれば、 

 

いや、君の医者としての志は素晴らしいと思うんだが、私も慈善事業をしているわけではないんでねぇ。病院の利益が出ないと、君を含む医師や看護士、その他全てのスタッフに給料が払えないし、もしこの病院が赤字で潰れてしまったら、それこそ一番困るのは患者さん本人じゃないのかね。 

 

なんて言われると、私が総合病院の勤務医だとすればなかなかキツ一言だと思います。もちろん、その皮膚科医が素晴らしい医師で、 

 

「あの病院の皮膚科ってすごい評判いいわよ」 

「あそこの皮膚科の先生って有名な人らしいよ」 

 

なんて巷で言われるような状況にまでなれば、その病院のブランド価値が上がり、病院を訪れる患者数自体の増加が見込めるため、経営者の選択肢の1つではあります。しかし、それを実行するには、医療業界というとてつもなく大きい体制と戦う『勇気』と『志』、そして『技能』『体力』など、心技体を併せ持つ医師が必要となりますので、正直かなり難しいでしょう 

 

 

薬価差益とは 

 二つ目のポイントが『薬価差益』というものです。読者の皆様は、薬の価格を誰が決めているのかご存知でしょうか。 

 

「そんなの薬を作っている製薬会社に決まってるじゃないか!」 

 

実はそうじゃないです。

薬の価格、薬価を決めているのは、厚生労働省が管轄する『中央社会保険医療協議会(中医協)』と呼ばれる組織で、厚労省の役人や医師、公益委員など合計20〜30名ほどで構成されています。アメリカやイギリスなどの先進国では、薬の値段は製薬会社が決めており、その価格で買うか買わないかは患者次第で、加入保健サービスによっては値引きもあります。

ですが、日本では中医協という1つの組織にしか決定権がなく、医療の現場を知らない、医療業界の利益確保を最優先としている中央官庁の職員が薬価を決めているのです。こんな組織は、先進国の中でも日本だけの特殊なものです。しかも、この中医協は、薬価だけでなく先に挙げた診療報酬も決めています。診療報酬に関して、上昌広氏(93年東京大学医学部卒業。国立がん研究センターなどを経て、現在医療ガバナンス研究所理事長)は週刊現代の記事で、 

 

例えば、心臓マッサージを30分間施した場合の診療報酬は2500円ですが、風邪の診療報酬は4000円に設定されている。生死がかかる治療の方が安くて、3分で終わる診察の方が高いなんて、おかしいと思いませんか 

 

と言っています。 

 

 近年薬価で驚くことといえば、『夢の抗がん剤、オプジーボ(小野薬品、製品名ニボルマブ)』を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

年間3500万円という驚くべき価格がつけられた抗がん剤です。日本オプジーボの価格は、100mg当たり約73万円であるのに対して、米国では約30万円、英国では約14万円と通常では考えられないほど高額となりました。

それはなぜか。元々オプジーボは、悪性黒色腫(メラノーマ・皮膚ガン)に対してしか効果が認められておらず、適応患者数が約600人と少なかったので、これほど高額な薬価が認められたのです。しかしその後、患者数約6万人の肺がん及び腎臓がんにまで範囲が広がり、これらすべてを保険で賄おうとすれば、国の医療財政が破綻してしまうとなり、問題となりました。これにより、緊急の薬価改定が行われ、2017年2月には約50%オフの36万5000円まで引き下げられました。本来はもっと早くに価格を下げることもできたのですが、薬をなるべく高く売りたい製薬会社と、高い薬を出すほど『薬価差益』が増える医師が自分たちの利益を守ろうとしたこと、価格改定を遅らせることとなり、結果世論の反発を大きくしました。 

 

 前置きが長くなりましたが、この『薬価差益』とはどういうものか。病院や調剤薬局は、健康保険組合に対して、患者に使用した薬代を中医協が決めた薬価基準通りに請求します。しかし、医薬品の取引価格に関しては規制がないため、病院(医師)は医薬品卸業者から薬代をまけてもらっています。その際に生まれる利益が『薬価差益』です。 

わかりやすく例えてみましょう。薬品Aという薬があるとします。この薬品Aの中医協によって決められた価格は1万円です。しかし、病院側は薬品AをMR(製薬会社営業)との交渉により9000円で購入することとなりました。病院はこの薬を月100箱購入します。この際、病院が薬代として支払う額は、90万円です。しかし、健康保険組合からは薬価基準をもとに計算された100万円が病院に支払われ、病院は10万円の儲けを出すことができるのです。 

これが、薬を出せば出すほど病院が儲かる仕組みです

 

医師と製薬会社の関係

こうなってくると、

 

「製薬会社と医者との癒着があるじゃないか?」 

 

と思う人もいるでしょう。当然ありました(あります)。高級料亭での食事会、高級クラブ、スポーツ観戦、ゴルフ、カラオケなど、多くの娯楽が企画されては、その費用を製薬会社が負担。会が終われば、医師はタクシーチケットをもらって帰宅し、後日その費用も製薬会社に届く。景気がいい頃は、学会出張という名の観光旅行に製薬会社が費用を出すのは当たり前、果ては、MRとの雑談中に「ゴルフがしたいな〜」なんて言えば、新品のゴルフセットが届いたという話まであったほどです。MRに求められるものは、『専門知識より夜の街の知識』ということがまかり通っていたのです。現に私の知人のMRは、 

 

いや、ほんまに大げさに言うんでもなんでもなく、この世界は『リアル白い巨塔』。お医者様は神様やから 

 

と言っていました。そして、本当に夜の街に詳しいですし、驚愕のお遊びエピソードをいくつも持ち合わせています。

ちなみに私の知人のMRは優秀な方ばかりで、専門知識も半端ではないですが。 私が修了したMBA課程でも、海外、日本問わず製薬会社のMRの方が多かったです。理由を尋ねてみると、特に海外(外資系)の製薬会社では、MBAを持っていないと出世コースに乗れないというのが暗黙の了解としてあるとのこと。製薬会社の経営体質がどのようなものであるかを物語っています。

 

 しかし、こういった医師と製薬会社の癒着による問題が表面化し、2012年4月『医療用医薬品製造業公正競争規約の改定』が行われ、懇親のみを目的とした接待が禁止され、職務に関する費用負担であってもその上限額が設定されました。具体的には、講演会に伴う立食パーティーなどの懇親行事では一人当たり2万円(小規模なものは5千円)まで、医薬品の説明会に伴う弁当の提供は一人当たり3千円までとなり、これらに該当しない飲食の提供や二次会、娯楽などの費用は制限されることになりました。また、医師や医療機関に支払った講演料や飲食費については開示が求められるようになりました。 

2012年当時、私は大阪の梅田に職場があったのですが、当時のことをよく覚えています。大阪の夜の社交場と言えば、同じく梅田にある北新地という場所なのですが、医師の接待が事実上禁止されたことにより、北新地界隈のクラブやキャバクラ、高級料理店など、北新地界隈は金払いの良い顧客離れを危惧し、騒然としていましたし、実際新地の本通りも人影が減り、活気を失いました。リーマンショックからの立ち直りを見せはじめていた矢先に起こった、景気の影響をモロに受けるナイトクラブ、飲食業界を驚かせた大きなニュースだったのです。 

 

 以上、これらの『点数制報酬制度』と『薬価差益』から考えると、『薬を出さない治療』というものがいかに難しいかを見て取ることができます。日本の予防医療が世界に大きな遅れをとっているのもこれらと無関係ではないでしょう。日本の医療制度は、素晴らしい面もたくさんありますが、その分問題も山積みです。しかし、私たちに構造的欠陥を是正する力はありません。

だからこそ、私たちは日本の医療制度や病院を無条件で信じるのではなく、『自分の命は自分で守る』という意識を強く持ち、自らが考え、対策を講じるという個人個人の行いが重要となるのです。 

 

 

アトピー人気ブログランキングはこちらです☆

↓当ブログは、ブログランキングに参加しております。クリック数がランキングに比例しますので、応援宜しくお願い致します!

-第4章

© 2024 脱ステのススメ Powered by AFFINGER5