プロトピック軟膏について
それからすぐ、気になっていたプロトピック軟膏について調べて見ました。
プロトピック軟膏も結構古い薬で、1999年にアステラス製薬株式会社により発売され、現在は製造販売承認がマルホ株式会社に承継されています。同社のインタビューフォームによると、プロトピック軟膏の治療学的、製剤学的特徴として、以下の様に記載されています。
以下マルホ株式会社HPより抜粋 (https://www.maruho.co.jp/medical/pdf/products/protopic/protopict_if.pdf)
プロトピック軟膏の有用性
臨床試験成績から見た特徴及び有用性
【有効性】
- 顔面・頚部のアトピー性皮膚炎に対して、ミディアムクラスのステロイド外用剤よりも即効的かつ優れた治療効果を有する
- 躯幹・四肢のアトピー性皮膚炎に対して、ストロングクラスのステロイド外用剤と同等の治療効果を有する
- アトピー性皮膚炎患者において、QOLの改善が期待できる
【安全性】
- ステロイド皮膚症(皮膚萎縮、毛細血管拡張等)に類似した皮膚障害作用を起こさないことが期待できる
- 顔面・頚部のアトピー性皮膚炎に対しても、長期使用(7週)が可能であった
- 全身的な副作用の発現頻度は極めて低いことが期待できる
- 本剤の副作用のうち、最も発現率の高いものは塗布部位に見られる皮膚刺激感(熱感、ヒリヒリ間、そう痒感等)であり、ステロイド外用剤に比し優位に高頻度で発現する。本剤による皮膚刺激感は、通常、治療開始初期に塗布後一過性に発現し、皮膚症状の改善に伴い発現しなくなる。また、ほとんどが軽度〜中程度の刺激感である
- 承認時までの臨床試験では、成人1230例中819例(66・6%)に臨床検査異常値を含む副作用が認められた。主な副作用には熱感545例(44・3%)、疼痛290例(23・6%)、そう痒感117例(9・5%)、毛嚢炎77例(6・3%)、ざ瘡48例(3・9%)、カポジ水痘様発症例26例(2・1%)、単純疱疹19例(1・5%)であった。
市販後の調査では、5383例中1637例(30・4%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められた。主な副作用は疼痛750例(13・9%)、熱感637例(11・8%)、そう痒感182例(3・4%)、ざ瘡118例(2・2%)、毛嚢炎71例(1・3%)、カポジ水痘様発症例65例(1・2%)、単純疱疹62例(1・2%)であった。
(再審査結果通知:2010年10月)
といった内容です。要約すると、
『顔や首と言った部位では、ミディアムクラスよりも優れた効能を発揮し、全身の効果はストロングクラス同等にも関わらず、ステロイド使用時に見られる副作用はなく、全身的な副作用が発症することもほぼない』
ということになります。なんて素晴らしい薬なんだ。これが事実なら、
『ステロイド外用剤なんて使わなくても、プロトピック軟膏だけを使っていればいいんじゃないか』
という風に考えるのが自然です。しかし、プロトピック軟膏のインタビューフォームの『治療に関する項目』に、以下の記載がありました。
〈効能・効果に関連する使用上の注意〉
ステロイド外用剤等の既存療法では効果が不充分又は副作用によりこれらの投与ができないなど、本剤による治療がより適切と考えられる場合に使用する。
(解説)
本剤の臨床試験期間は2年が最長であり、それ以上の長期使用時における安全性は不明である。又、アトピー性皮膚炎の薬物治療としては、ステロイド外用剤が主体と考えられていることから、本剤による治療がより適切と考えられる場合に使用すること
といった内容です。これは『製薬ビジネスにおける領土問題』と『長期使用における副作用がステロイドよりも重大』という両面が見てとれる内容です。『長期使用における副作用がステロイドよりも重大』だという件は、佐藤先生がおっしゃっていた発癌リスクに違いない。次に私は、使用上の注意に関する項目に目を向けました。そこには、赤線での囲い込みと全文赤字でこう記してありました。
警告
[警告]
- 本剤の使用は、アトピー性皮膚炎の治療法に精通している医師のもとで行う
- マウス塗布がん原性試験において、高い血中濃度の持続に基づくリンパ腫の増加が認められている。又、本剤使用例において関連性は明らかではないが、リンパ腫、皮膚がんの発現が報告されている。本剤の使用に当たっては、これらの情報を患者に対して説明し、理解したことを確認した上で使用すること
- 潰瘍、明らかに局面を形成している糜爛に使用する場合には、血中濃度が高くなり、腎障害等の副作用が発現する可能性があるので、あらかじめ処置を行い、潰瘍、明らかに局面を形成している糜爛の改善を確認した後、本剤の使用を開始すること。
次は、『重要な基本的注意』です。
重要な基本的注意
- 重度の皮疹もしくは塗布面積が広範囲にわたる場合は、血中濃度が高くなる可能性があるので、本剤の使用開始2〜4週間後に1回、その後は必要に応じて適宜腎機能検査を行い、異常が認められた場合には、直ちに使用を中止し、適切な処置を行うこと
- 本剤使用時は日光への曝露を最小限にとどめること。また、日焼けランプ/紫外線ランプの使用を避けること
- 2年以上の長期使用時の局所免疫抑制作用(結果として、感染症を増加させたり、皮膚ガンの誘因となる可能性がある)については、臨床試験成績がなく不明である
- 皮膚感染症を伴うアトピー性皮膚炎患者には使用しないことを原則とするが、止むを得ず使用する場合には、感染部位を避けて使用するか、又はあらかじめ適切な抗菌剤、抗ウィルス剤、抗真菌剤による治療を行う、もしくはこれらとの併用を考慮すること
- 使用後、一過性に皮膚刺激感(灼熱間、ほてり感、疼痛、そう痒感等)が高頻度に認められるが、通常、皮疹の改善とともに発現しなくなるので、皮膚刺激感があることについては患者に十分説明すること
佐藤先生がプロトピックについて言及していた通り、恐るべき事実が記されていました。③の表記です。これはつまり、
「2年以上の長期使用においては、マウスでの実験結果では皮膚癌になるリスクが実証されているけど、人間に対する臨床データはないので、それはまぁ使ってみて結果を見てみないとわかりません」
ということです。まさに人体実験と呼ばずになんと呼ぶことができようか。そして私は、この発癌リスクのあるプロトピック軟膏が発売されて約20年、この人体実験の犠牲者となった方がいるのではないかと、さらに調査を進めました。そして、私の気持ちとは裏腹に嫌な予感は的中しました。2010年3月21日、日本経済新聞の記事です。以下引用します。
プロトピック使用における発癌被害
アトピー薬使用後にがん 米で子供46人
【ワシントン=共同】
日本でも販売されているアステラス製薬の「プロトピック(一般名・タクロリムス水和物)」など2種類のアトピー性皮膚炎治療薬を使った米国の子どもが、2004年1月〜2009年1月の5年間に計46人、白血病や皮膚ガンなどを発症し、このうち4人が死亡したと米食品医薬品局(FDA)に報告されていることが21日に分かった。
適応対象外の子どもに使ったり、長期間使い続けたりするなど、使用法が守られていないケースが多いという。因果関係は明確ではないが、発がんと関連する恐れがあるとして、FDAは近く専門家会議を開き、薬の添付文書改定を検討する。
もう一つ薬はノバルティス社(スイス)の「エリデル(日本未発売)」。いずれも塗り薬で免疫抑制作用がある。 FDAによると、0〜16歳でプロトピックを使った15人、エリデルを使った27人、両方を使った4人の計46人が皮膚がんやリンパ腫、白血病を発症した。
うち50%は、添付文書で「使うべきでない」とされている2歳未満。41%は、安全性が確立していないと注意喚起されている1年以上の長期使用。プロトピック使用後にがんになった子どもの26%は、有効成分濃度0・03%の子ども用ではなく、濃度0・1%の大人用を使っていた。FDAは05年にも、発がんと関連する恐れがあるとして、使い方に注意するよう呼びかけている。
同じ内容の記事が、2010年3月22日の産経新聞にもありました。この記事を見て驚いたのは、
『安全性が確立していないと注意喚起されている1年以上の使用』
という表記です。先に記述したプロトピック軟膏の注意喚起では、『2年以上の長期使用においては安全性が確立されていない』とありました。しかし、アメリカではその半分の1年以上の長期使用の安全が確立されていないとある。なぜこのような違いが出るのかと思った私は、プロトピック軟膏のインタビューフォームの『安全性試験』の項目を調べて見ることにしました。するとこのような記載がありました。
【長期観察試験(全身)】
16歳以上の中等症以上のアトピー性皮膚炎患者を対象に、0・1%タクロリムス軟膏を顔面・頚部を含む全ての皮疹部に対して1日1〜2回(1回最大量10g)、6ヶ月〜1年間(最長2年間)単純塗布した。
ここまで読み進めてこられた読者の皆様であれば、この表記について何か違和感を覚えたのではないでしょうか。そうです。最長2年間の試験期間なのであれば『6ヶ月〜2年間』と表記すればいい。にもかかわらず、なぜ『6ヶ月〜1年間(最長2年間)』という書き方をしたのか。これは、
『データとして信頼できるレベルの調査が1年分しかなく、2年目のデータはお飾り程度、あるいは2年に満たないものだった』
と考えれば、長期使用の期間について、アメリカでは1年、日本では2年の表記になっていることにも説明がつきます。そして、このプロトピック軟膏に対して私が最も危惧しなければならないと感じたことは、
『インタビューフォームには再三、皮膚がんやリンパ腫、白血病等の発症リスク及び2歳未満の幼児には使ってはいけない、長期間使用してはいけないということを患者に説明しなさいと記載があるにも関わらず、私はそんな注意喚起を受けたことがない』
という事実です。私は羽曳野医療センターでプロトピックを処方されましたが、その際こういったリスクの説明を受けることはありませんでした。そして、それは恐らく多くの患者様にも同じことが言えるのではないでしょうか。アメリカでは、2010年時点、分かっているだけで46人の子供が白血病や皮膚ガンを発症し、4人もの命が失われたという事実があるのにも関わらずです。いかに自分や家族、大切な人を守るために、信頼できる情報を精査することが重要かを改めて思い知らされました。
読者の皆様へのお願い
本書の読者の皆様にお願いします。間違っても、ご自分が処方されたプロトピック軟膏をお子様に使用したり、またご自身を含め長期的に使用することはやめてください。そして、身近でそのような危険性がある方がいらっしゃれば、是非注意喚起をしてくださるよう、よろしくお願いいたします。