脱ステ治療スタート!
佐藤先生の指示通り、2016年9月より脱ステロイドに向けた生活をスタートさせることとなりました。
佐藤先生の指示は、先に記した5点。
1.ステロイド外用剤の使用頻度、使用箇所を徐々に減らす
2.ワセリンの使用頻度、使用箇所を徐々に減らす
3.バランスの良い食生活を心がけ、良タンパク質を意識的に摂取する
4.水分制限をする。特に夕食後は何も飲まない
5.有酸素運動をする
です。ライフスタイルに関連する、③のバランスの良い食生活については普段から気にかけてはいましたが、さらに良質なタンパク質の摂取に関しては、体内で作り出すことのできない必須アミノ酸を多く含む食品を意識して取るようにしました。具体的にいうと大豆製品(豆乳、納豆、豆腐)、卵、肉類全般(牛肉、豚肉、鶏肉は特にささみ)、魚類(アジやイワシなどの青魚、シラス等)などです。その他には、元来私は痩せ型で太らない体質であったので、運動後はプロテインの豆乳割りを必ず飲んでいました
次に⑤の運動についてですが、これに関してはもともと身体を動かすことが好きだった私は、週2回は平均7〜8キロのランニングを日課としておりましたし、職場の往復16キロを自転車で通っていたため、特にこれまで通りで、新しいことは追加することはしませんでした。
ライフスタイル関連の項目で、個人的に1番難しいと感じたのは④の水分制限です。これに関しては、佐藤先生からはだいたい1500mlに抑えるようにと言われていたのですが、あまり気にせず、『まぁだいたいこんなもんかな』ぐらいの感覚で過ごしていました。夕食後の水分摂取は控えるようにとのことでしたが、これもなかなか実現することは難しかったです。
いうまでもなく、最も大変なのが①と②です。依存状態から抜け出すための根本となりますので、当然です。
まずは①のステロイドを塗る時間を遅らせることですが、いつも入浴後すぐに薬を塗っていた私は、まず入浴1時間後に塗ることにしたのですが、これが想像以上に難しい。なぜなら、入浴後10分もすると、体がパリパリと乾燥していくのがわかり、それと同時に痒みが襲ってくるのです。しかし、この状態に慣れることなしに、ステロイド依存から離脱することはあり得ない。もう単純に気力と根性の問題です。しかし、自分の身体というか人間の身体は良くできているもので、身体的に辛いことでも、継続していると身体がその状態に適応しようと変化していくのが良くわかります。それが自分の身体にとって良いことであればなおさらのようです。
ステロイド塗布時間の経過
私が辿った、ステロイド塗布時間の経過は以下の通りです。入浴時間は19時を目安としております。カッコ内の表記は、(体に何も塗っていない時間の経過/そこに到るまでにかかった期間)を表しています。例えば【就寝前(5時間/4ヶ月)】という表記は、入浴時薬を洗い流した後、5時間何も塗っていない状態を維持していることを表し、そこに至るまで4ヶ月の時間を要したという意味になります。
・入浴1時間後(1時間/1ヶ月)
↓
・入浴2時間後(2時間/2ヶ月)
↓
・入浴3時間後(3時間/3ヶ月)
↓
・就寝前(5時間/4ヶ月)
↓
・起床後(12時間/6ヶ月)
↓
・翌日入浴後(24時間/8ヶ月)
↓
・翌々日入浴後(48時間/10ヶ月)
と、脱ステを2016年9月からスタートして、2017年6月頃にはステロイドをまる2日間塗らなくても大丈夫というところにまで到ることができました。しかし、これはステロイド外用剤を使用していないということで、脱保湿にまでは到っていません。脱ステ開始から10ヶ月でステロイドからの完全離脱は成功しましたが、1〜2日に1回は、部分的に白色ワセリンを使用していました。しかし、この10ヶ月の期間では、そこまでひどい離脱症状はありませんでした。もちろん、身体を掻くことによって皮膚が傷つき、浸出液が出ては固まり、治った頃にはまた搔き壊したりを繰り返しましたが、日常生活に重大な支障をきたすレベルとまではなりませんでした。
やはり、1番気になったのが顔部分です。読者の大部分の方、特に女性の方はそうでしょうが、風呂上がりに保湿をしないなんて、ちょっと考えられないと思います。健常者の方でもそうなのですから、アトピー患者にいたっては、それはもう大変です。顔や首は他の部分より皮膚が薄いからか、乾燥度合いがより顕著に現れました。入浴後数分も経てば、もうパリパリ状態で、落屑が始まる部位もあれば、額なんかはヒビ割れる箇所も出てきます。
私の場合、顔や首に関してはかなり前の段階でステロイド完全離脱が済んでいたからか、皮膚が真っ白のうろこ状になっては落屑し、また治ってきたなと思っては落屑しという皮膚の代謝スピードが全身に比べて倍以上に速かったです。私の場合は当時工場内勤務でしたし、会社にも自転車で通勤していたので、それほど他者と接することがありませんでした。ですので、この顔の離脱症状もそんなに気にならなかったですが、正直電車通勤で、従業員の多い企業や、接客業に従事しておられる方、特に女性は、通常の生活を送りながら脱保湿を行うというのはなかなか難しいと感じました。現在であれば、どういった業種であってもマスク着用はほぼ必須でしょうから、脱ステ治療には良い期間かと思います。
脱ステ10ヶ月後
さて、ここまで順調に進んできた脱ステ生活ですが、10ヶ月を過ぎ、ステロイド外用剤の完全離脱を終え、保湿剤を塗る箇所も少なくなってきた頃、症状に大きな変化が起こり始めました。離脱症状が一気に吹き出してきたのです。
この頃、精神的には仕事でのストレスもかなり感じていた頃なのですが、両足の膝の裏はかなりの落屑と搔き壊しによる浸出液がひどく、ふくらはぎを伝って流れ落ちるほどになっていました。指先から手首、肘の内側にかけてもひび割れや搔き壊しがひどく、夜も身体が痒くてほとんど眠れなくなりました。処方されていた抗ヒスタミン剤も、全く効かない状態。
起きるとベッドは落屑まみれ、浸出液でシーツは汚れ、ベッドどころかそこら中に落屑がある状態にまで陥りました。日常生活に支障をきたすレベルです。当時(ピークを若干過ぎた頃)の状態を画像におさめております。詳細まではわかりにくいですが、少しでも皆様の参考になればと思い、次ページ以降に掲載させていただきました。お見苦しい点多々あることかと存じますが、何卒ご了承のほどよろしくお願いいたします。
2016年9月以降、だいたいひと月に1回のペースで阪南中央病院を訪れていたのですが、離脱症状が一気にひどくなった2017年6月の終わり頃、佐藤先生から次のように言われました。
「もうここまできたら、一気にワセリンも完全にやめた方がいい。それが結局は1番の近道です。日常生活に支障をきたすほどしんどくなっているのであれば、やはり入院をお勧めします」
どれぐらいの入院期間になりそうかと尋ねると、やはり40〜50日前後になりそうとのこと。一般的な社会人からすると、かなり厳しい日数です。しかし、身体が痒くてほとんど眠れない状態が続いており、肉体的にも精神的にもかなりまいっている。できることなら入院したいが短くても40日・・・。この日数が私にはとても大きくのしかかりました。そんな中、次のような情報が入ってきます。
はびきの医療センター/アトピーカレッジ(教育入院プログラム)
「はびきの医療センターで、アトピーカレッジっていう教育入院プログラムがあるみたいやで。医師だけやなく、薬剤師、看護師、栄養士、臨床心理士が連携して、症状の早期改善と再発を防ぐための入院治療で、期間は2週間らしい。しかも、今は『TARC値』ってゆうアトピーの重症度を数値で測定できて、その数値に合わせた薬を塗ることで、より確実かつ的確な治療ができんねんて!」
といった内容です。
TARC値とは?
このTARCというものは、白血球走化作用をもつケモカインの一種で、アレルギー炎症反応を引き起こすと考えられています。簡単にいうと、アトピー重症患者はこのTARC値が高くなり、症状が治まるとともに数値は低くなるというもの。
従来のアトピー性皮膚炎の症状は、見た目と患者本人の自覚症状でしか判断できませんでしたが、TARC値を測定することにより、数値を元にした客観的な診察が可能になるとともに、見た目には症状がないように見えても、重症度が高い患者を発見し、それに応じた処置を施すことが可能になるとのことでした。
このTARC検査が出てきた背景を調べてみると、元々アトピー性皮膚炎は幼少期の子供が患う病気であったのにも関わらず、成人(特に30歳以上)の有病率が増加しているうえ、重症化、難治化傾向が問題となっており、重症度に応じた適切な治療の重要性が指摘されたことにより、このような検査が現れたそうです。論理的に考えれば、ステロイド外用剤を長期的に使用したことにより、依存性や耐性が生まれた可能性をまず疑うべきということは、医学素人の私でも直感的にわかることなのですが、明らかに、かつ意図的に
「これまでの私たち、日本皮膚科学会のやり方は間違っていない!」
と、自分たちの過ちを認めようとしない姿勢は、私には非常に滑稽に映ります。数年前、日大アメフト部の悪質タックル問題がいたるところでニュースに取り上げられましたが、この報道を見ていても、いかに権力を握った組織や人間が、自らの非を素直に認めることができないものかと、本当に情けない気持ちになります。20歳の若者があんなに勇気を持ち、自分の正義を貫き、メディアの正面に立ち堂々と謝罪したにも関わらずです。この件について、私の敬愛するダウンタウンの松本人志さんは出演番組(ワイドなショー)の中で、
「私もこの歳になって思うんですけど、権力の上にあぐらをかいてはダメなんですよね。権力の上で正座をする。権力を持つ、持ちたいと思うこと自体は悪いこととは思わないんですけど、それを手に入れた時のあり方ってゆうのを常に意識せなあかんなと思います」
とおっしゃっていました。本当にその通りだと思います。
今冷静になって考えれば、『ちゃんちゃらおかしいぜ!』という内容なのですが、当時精神的にも肉体的にもステロイドの離脱症状にかなりやられていた私は、このように考えたのです。
「2週間の入院でええんか。それぐらいやったらなんとか仕事も休めそうや。ステロイドを塗ったらこの症状が治まるんは間違いない。それでこの苦しみから逃れれんねやったら、それでもええかなぁ。それに、佐藤先生とは正反対の意見も聞いて見たいし、1回診察受けに行ってみよ」
といった具合です。これは、肉体的、精神的余裕のない状態において、論理的かつ正常な思考を行うことがいかに難しいかを表すいい例だとおもいます。こういった状態の患者に対しては、いかに周囲の人間が愛を持って、冷静かつ論理的な会話を持つことが重要かと考えます。
しかし、後者の『正反対の意見を聞く』ということは非常に重要なことです。
読者の皆様も経験がお有りかもしれませんが、夫婦(あるいは恋人同士)の喧嘩の相談、あるいは仲裁を例に考えて見ましょう。あなたは、友人夫妻の奥様から夫婦喧嘩の相談を受けました。あなたは、その夫婦ともに昔からの友人で、普段からよく一緒に遊ぶ仲です。奥様は本当に落ち込んでいて、話を聞いているとどう考えても旦那様に非があるように感じます。
ここで、奥様からの話を一方的に信じ、旦那様を否定してしまっては、旦那様がかわいそうではないでしょうか(決して私がこのようによく怒られるというわけではありません)。旦那様には、旦那様の言い分があるはずです。本当に二人を仲直りさせたい、あるいは仲直りさせなければならない状態にあなたがあるとしたら、3人で集まり、互いの主張や言い分を聞き、お互い折り合いをつけるべきところを探りながら、着地点を見つけるという方法が効果的なはずです(もちろん、どちらかが一方的に悪いという場合も稀にありますが)。
この正反対の意見を聞くという手法は、自分が絶対に正しいと思い込んでいる時ほど有効です。本当に自分が正しければ、正反対の意見を聞いた時、その意見を論破することができ、自分の意見に確信を持つことができます。もしそうできないとしたら、両方の意見を参考に、さらに良い答えを見つけ出さなければなりません。そう思った私は、佐藤先生に紹介状を書いてもらい、約7年ぶりにはびきの医療センターを再訪しました。
はびきの医療センターでの診察
羽曳野医療センターでは、若い女性の先生(名前は覚えていません)が診察してくれました。私がこの診察で質問したことは、
「入院するとしたら、どのような治療をすることになりますか?」
という1点のみです。これに対する先生の回答は、
「症状がひどいので入院をお勧めします。治療に関しては、TARCの数値を確認し、まずは身体中に薬をしっかり塗り、肌に浸透させます。これにより2、3日でかなりの改善が見られると思います。アトピーを改善するには、患者様にも病気について理解を深めていただく必要がありますので、薬剤師や栄養士、臨床心理士さんから、アトピー性皮膚炎をうまくコントロールするための知識や方法なども学んでいただきます。入院期間はおよそ2週間ですが、その間で日常生活に支障のないレベルまで改善できるかと思います。退院後は、先のTARCの数値を元に薬を外用していただき、1年〜2年をメドに薬を使用しなくても良い状態にしていければと思います」
といった内容でした。これを聞いて、私は次のように考えました。
「やっと約1年辛い思いしてステロイド離脱は成し遂げたのに、ここでまたステロイドを使ってもーたらこの1年が無駄になってまう。でも、薬を塗ったら確実に良くなるのは、土佐清水病院でも経験済みやし。それに、TARCってゆーんも気になる。ほんまにその数値を元に治療したら、効率よくステロイド離脱出来んのかなぁ。やっぱり入院期間が2週間ってゆうのも魅力やし・・・」
といった具合です。ただ、先生が言ったひとつの言葉が私には強烈に引っかかりました。
「阪南中央病院の先生も、ここ(阪南中央病院)では良くならないと判断して紹介状を書いて下さったんでしょうし、頑張って治していきましょう」
いや、それは違う。私自身、本心ではステロイドはもうダメだとわかっている。でも、楽になりたいという気持ちと、正反対の意見も聞きたいという私の気持ちを佐藤先生は汲んでくださったのだ。佐藤先生は、いつまでたっても非を認めない日本皮膚科学会、その治療ガイドライン作成者の一人がいる病院に紹介状を書くことは、本当はしたくなかったはず。私なら絶対嫌だ。しかし、佐藤先生は嫌な顔ひとつせず紹介状を書いてくれた。なぜか。自分のプライドなんかよりも、患者の想いの方が大切だったからだ。
それとは裏腹に、私は羽曳野医療センターの若い医師に対して、ネガティブな感情を抱くことは全くありませんでした。なぜなら、この先生はアトピーに対する羽曳野医療センターの治療方針に全く疑いを持っていない、完全に信じていると感じたからです。この先生も、私の症状をよくしてあげたいと思ってくれている。そんな先生に対して、批判的な感情を抱くことができるはずもありません。しかし、この事実が私を悲しい気分にさせるのと同時に、官僚的な医療業界に対して大きな怒りを感じさせました。
阪南中央病院、羽曳野医療センターの両方で入院についての話を聞いた私は、現状の報告も兼ね、社長に相談に行きました。社長は、
「正直どっちがいいとかわしにはわからんしなぁ。まぁ期間のことは気にせんでえぇから、自分がいいと思った方に入院したらえぇと思うで」
と言っていただけたので、最終的に阪南中央病院に入院することを決めました。