第7章

脱ステのススメ 23 第7章 〜脱ステ生活における日々のチェックリスト〜

自身で脱ステを行う際の注意点

近くに信頼できる脱ステ専門医がおらず、自分自身の判断で脱ステを行わざるを得ない方もたくさんおられると思います。

 

佐藤先生は、医師の診察なしに脱ステを行う際の注意事項として、 

 

ステロイドや保湿剤を一気に中止するのではなく、徐々に減らす方法を取ること。もう一つ、プロトピックを外用している場合は、ステロイドに変更すること 

 

を挙げています。

最も楽な方法は、私が行ったのと同様、入浴は夜の1回、入浴後に薬を塗る、塗る時間を徐々に遅らせていき、離脱症状が強くなった時点で外用を中止する方法です。この際、日常生活をおくることが困難なほど症状が悪化すれば、やはり入院治療が必要であるとのこと。入院することなしに症状の改善が見込めるのであれば、やはりそれにこしたことはありません。

その際、特に目標も立てず、漫然と脱ステに臨むのと、目標を持ち、経過を記録し、確認しながら回復を目指すのとでは、結果に明らかな差を生むのは、私自身の経験や他の入院患者の回復状況を見ても明らかです。皆様の脱ステ成功の一助となりますよう、入院時につけていたチェック項目及び、必要だと思われる項目を自身の経験、佐藤先生の書籍や言葉を参考に、以下にまとめさせていただきます。 

 

脱ステ時のチェックリスト

体温、脈拍 

ステロイドや保湿離脱初期には、皮膚が湿った紅皮症状態となる場合が多く、その際身体の体温調節機構が変調します。ですので、紅皮症状態にあっては、37度5分までは平熱と考えて問題ありません。私の場合、入院時は37度前半が平熱でしたが、退院時には36度5分ぐらいまで下がっていました。 

 

 

起床時刻、就寝時刻 

 起床時刻、就寝時刻毎日決まった時間に習慣化させることは、規則正しい生活をおくる上で、また質の良い睡眠を確保する上でとても重要です。以前は、成長ホルモンの分泌による肌の新陳代謝が最も活発に行われる時間帯は22時〜2時の間であると考えられていましたが、現在の研究では、成長ホルモンの分泌は『時〜◯時の間』という時間に依存するものではなく、眠りの深さに依存することがわかっています 

 

 

入浴回数 

 入浴回数が多いことは保湿を行なっている回数が多いことと同じですので良くありませんが、痛みや乾燥を恐れて回数が少なすぎる(皮膚に亀裂や浸出液を伴う掻き傷があるのに、数日間入浴していない)のも、感染症を引き起こす可能性を高めてしまいます。入浴は消毒の代わりになりますので、空気の乾燥する季節は頻度を減らしても構いませんが、夏場や汗をかいた時は、悪い菌や汗についた細かいホコリをさっと洗い流しましょう。 

 

 

摂取水分量 

 脱ステ、脱保湿療法において、摂取水分量の調節は最重要項目の1つです。浸出液や落屑が多い時期は、皮膚の再生を促す血液中のタンパク質が不足しやすい状態にあります。このような状態にある時に水分を過剰摂取してしまうと、血液中のタンパク質の漏出を促進させてしまい、皮膚の治癒を遅らせてしまいます。

よって体重による増減はありますが、普通の食事を完食した上に、平均1000ml〜1500mlの水分を摂取する必要があります。この際、最も注意しなければならないのが、過度な水分制限です。水分制限をストイックに行いすぎると、高ナトリウム血症を引き起こす可能性があり、生命の危険を伴います。ですので、自宅でこれを行う際には、患者本人が適切な水分調節を行う必要があります。もし、朝食でパンを牛乳などの液体で流し込まなければ食べられないような状況であったり、尿量が極端に少ない(1日500ml以下)場合、水分制限が行き過ぎていると考えてよいでしょう。また、排尿時は尿の色を確認し、少し黄色がかっていればOK、透明ならば水分摂取が多く、赤に近い黄色の尿は水分制限のしすぎと判断できます。 

 先にも記述しましたが、運動による発汗で体外に出た水分は、食事外基準水分量とは別に補給することが必要です。 

 

運動量 

 スポーツをする人たちの肌はいつまでも美しいというのは、皆様も感じたことがあるのではないでしょうか。この事実は、スポーツを行うことにより、様々な皮膚の調節機構が良好に働いているという何よりの証拠です。 

ステロイドや保湿離脱で、体の関節のひび割れや痛みが落ち着いてきた頃に始める運動(理学療法)には、二つの意義があります。私もそうでしたが、症状の悪化に伴い多くの患者が家に引きこもりがちとなり、運動不足となります。そして体力が落ちている状態でステロイドや保湿離脱に入ります。その後、症状が改善し、なんの準備もなしに日常生活に戻り仕事や運動を行うと、今までなんの問題もなかった通常勤務などの負荷でも過労となってしまい、症状が悪化する可能性があります。

このように、病状回復後スムーズに日常生活に戻り、症状の悪化を防ぐ目的がひとつ。もうひとつは、運動をすることにより皮膚への血行をよくし、皮膚の治癒過程を促進させることにあります。皮膚へ到達する血管の多くは、深部の筋肉を貫通してくるものであり、運動することにより皮膚への血行をよくすることは明らかで、近年、運動により皮膚障害が早く治るという研究結果も発表されています。 

運動の内容は、まずはウォーキングやエアロビクスのような有酸素運動です。ウォーキングを例に取りますと、まずはじめは、休まずにゆっくり20分、これに慣れてくれば、同じ早さで30分に延ばします。次は普通の歩行速度で30分、さらに次は少し早めで20分など、徐々に負荷をかけていきます。普段からトレーニングをしている人は別ですが、そうでない患者が初めからランニングや腕立て、腹筋などの筋力トレーニングを行うと、ひどい疲れや筋肉痛で症状が悪化する可能性が高いので、目安としては30分の早歩きで疲れない程度になってくれば、ランニングや筋力トレーニングを始めても良いでしょう。 

 また、脱ステ、脱保湿療法中の皮膚は日光に敏感ですので、日焼け対策は必須です。帽子や日傘などでしっかりと対策しましょう。 

 

 

排便回数 

  慢性の便秘に悩む方が多い女性は特に認識されているかと思いますが、便秘はお肌の大敵です。便秘の主な症状は3つ。腸内に悪玉菌が増えるのが1つ。2つ目は、骨盤内の血行が悪くなり、さらに全身の血行が悪くなる。そして、自律神経の働きが乱れるというこの3つです。 

 便秘の予防、改善には、規則正しい生活、運動が最も効果的です。ですので、1日3食しっかり取り、運動を行い、規則正しい生活を習慣づけるという脱ステ療法をしっかりと行っていれば、便秘は自ずと改善されるでしょう。 

 便秘に有効な食品としては、食物繊維を多く含む海藻、豆、根菜、きのこや緑黄色野菜、果物など。また、乳酸菌を多く含むヨーグルトや味噌。特に、緑黄色野菜や豆、ナッツ、芋類などは、ビタミンEやビタミンB群も多く含んでおり、便秘の予防、改善にオススメの食材です。 

 また、朝起きてすぐに水か牛乳をコップ1杯飲むと、腸が刺激され、腸の動きをよくするので、便意が起こりやすくなります。 

 

 

症状の経過 

 脱ステロイド、脱保湿療法において、症状(皮疹)の経過を客観的に認識することも最重要項目の1つです。入院や短期間(週1回程度)での通院であれば、脱ステ患者を数多く診察してきた医師ならば、一般的な改善に向かう経過と個々の患者の特徴を掴み、的確な経過(どこがどのように改善しているか)を診断してくれますが、患者自身は皮疹の見方に慣れていないため、実際は症状が改善に向かっているのにも関わらず、見た目や自覚症状の悪さから、客観的かつ冷静に皮疹を見ることができなくなることがよくあります。 

 皮膚の状態を知るためには、全身の皮膚を客観的に見て、現在の症状を正確に評価するよう心がけます。肉体的、精神的に辛いときほど、皮疹の悪いところに目がいき、良くなっているところを見逃してしまい、いつまでも良くならないと感じたり、悪化していると間違った評価をしてしまうことがよくあります。ですので、常に全体の経過を追って見るよう意識して取り組みましょう。 

 また、自覚症状(自分で感じる症状の良し悪し)は、実際の症状の改善と一致しない(症状は改善方向に向かっているにもかかわらず、痛みや痒みから症状が悪化していると思い込んでしまう)ことが多く、皮疹改善の一般的経過と自身の症状を比べながら、自身の皮膚の状態を知ることが重要です。以下に、私自身の自覚症状を踏まえた一般的な症状改善に向けた経過を記しますので、参考にしていただければと思います。 

 

1.黄色または透明の浸出液が垂れ落ちるほど、一面がジクジクした傷、ビラン。痛みもあるが、かゆみの方が強い。ジクジク期。 

                ↓ 

2.浸出液が出ていた表面が固まり、黄色、あるいは薄紅色のかさぶたができはじめ、つっぱり感が強くなる。かゆみよりも痛みが強くなり、傷が深ければジンジン痛む。シットリ期。 

                   ↓ 

3.かさぶた部分が褐色に盛り上がった状態で固まる。このかさぶたに亀裂が入るとかなり痛い。例えば、膝裏の大きなかさぶたに亀裂が入ると、普通に歩くのが困難になるほどの痛みが生ずる。カサブタ期。 

                   ↓ 

4.かさぶたの周りが白くなり始め、かさぶたが剥がれ始める。この段階では痛みはほとんどなく、再び痒くなる。ポロポロ期。 

                   ↓ 

5.皮膚が白く、カサカサとして乾燥状態になる。カサカサ期。 

                   ↓ 

6.正常な皮膚になる。 

 

このような順序を経て、掻いては治りを繰り返しながら、徐々に皮膚が強くなっていきます。私は現在(2018年執筆当時)退院から10ヶ月になりますが、掻いても傷がつきにくくなり、掻いて傷がついた部分もだいたい1週間ほどで正常に戻るようになりました。時が立つにつれ、皮膚が強くなっていることと、治りが早くなっていることは明白にわかるようになり、身体が完治に向かっていることが実感できます。 

 

私が入院しているときは、一緒に入院生活を過ごした患者さんの多くがこのタイプの傷、症状の方でしたが、中には直径5センチほどの火傷のような傷がポツポツとある方(傷のない部分はとても綺麗な方)もいたり、脱ステの症状と言っても人により様々です。皮疹の一般的経過においては、佐藤先生の自著(※1)に詳しく載っておりますので、ぜひ参考にしていただければと思います。 

 

 

浸出液の量、シーツの汚れ 

 寝ている間にどれくらい身体を掻いているか、またはどれくらいぐっすりと眠れているかを判断するためにも、この項目を記録することは重要です。チェックは以下の3段階。 

 

1.汚れがない(浸出液がほとんど出ていない) 

2.少し汚れている(浸出液が少し出ている) 

3.かなり汚れている(浸出液がかなり多い) 

 

朝起きた時点でシーツを確認し、記録します。①の記録が何日か続くようになれば、症状もかなり回復しているはずです。 

 

 

落屑の量 

 脱ステ、脱保湿療法中、皮膚は常に破壊と再生を繰り返すため、初期には大量の落屑が生じます。落屑量は症状の改善に比例するように量が少なくなり、大きさも小さくなります。はじめは数ミリ程度の大きさの落屑も、症状の改善に伴い、空気中に舞うホコリレベルまで小さくなります。チェック項目は以下の3つで、これも浸出液のチェックと同様、起床時にすると良いでしょう 

 

1.少量 

2.片手半分 

3.片手一杯 

 

落屑が大きく、量も多いときは精神的にも肉体的にもしんどい時期ではありますが、改善に向かって努力をすることにより、目に見てわかるように少なくなっていきます。焦らず頑張っていきましょう。 

 

 以上9点が主要チェック項目となります。ご自身でリストを作成し、毎日チェックを行っていただければと思います。何度も言いますが、あなたの肌は必ずステロイドや保湿剤に頼らなくとも、キレイに回復します。焦らず、ご自身の症状としっかりと向き合い、経過を観察しながら、回復を目指しましょう。 

 

 

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