ステロイドとは
アトピー性皮膚炎の治療で使われる『ステロイド』とは、一言で言うと『副腎皮質ホルモン』を配合した薬品にあたります。
まず『副腎』について説明すると、副腎は、左右それぞれの腎臓の上に位置する小さな臓器であり、外側を取り囲む【皮質部】と内側の【髄質部】に分かれ、それぞれから機能の異なるホルモンを分泌しています。
【髄質部】からは、アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミンが分泌され、心拍出量や血圧を上昇させることにより身体を興奮状態にしたり、心臓の収縮力を強めて心拍数を上げ、血糖値を上げるなどで、代謝を亢進させたりします。
そして【皮質部】からは、腎臓でのナトリウム、カリウムのバランス調節を行うホルモンである【鉱質コルチコイド(アルドステロン)】と、血糖値を上昇させたり、ストレスや免疫、炎症を抑える作用がある【糖質コルチコイド】、そして男性ホルモンとも呼ばれる【アンドロゲン】が生産されます。副腎皮質ホルモンは生命必須ホルモンとも呼ばれ、生命維持に不可欠なものとされています。
スポーツ競技などでその投与がドーピング問題として取り上げられることがある『ステロイド』とは、男性ホルモンであるアンドロゲンやアルドステロンをより強化し、人工的に合成したステロイドで、筋肉を増強するという効果があります。
ドーピング目的で使用した場合、運動のパフォーマンス力の向上を図ることができる一方で、男性の場合は精子を作る力を低下させたり、女性の場合は体毛の増加や声が低くなるなどのいわゆる男性化作用、また肝臓にも負担がかかり、深刻な病気を引き起こすこともあります。このことからも分かる通り、スポーツ競技などで耳にする『ステロイド』と、アトピー性皮膚炎の治療に使われる『ステロイド』は全くの別物です。
副腎皮質ホルモンの中で、アトピー性皮膚炎と密接に絡むのは、【糖質コルチコイド】です。アトピー性皮膚炎の治療に使用されるステロイド外用薬とは、この【糖質コルチコイド】あるいはその誘導体(ほぼ同質のもの)を人工的に合成したものになります。
糖質コルチコチドの働きについて
糖質コルチコイドが生体に与える効果は大きく分けて二つ、『抗炎症効果』と『免疫抑制効果』です。
抗炎症効果とは
『抗炎症効果』とは、文字通り皮膚を掻いてしまうことで生じる、カサカサ、赤み、ジュクジュクといった炎症状態を静める働きのことです。アトピー性皮膚炎患者は、掻くことによって傷つけた皮膚の傷をさらに掻いてしまうという悪循環により、さらなる悪化の道を辿ります。皮膚を傷つけることによってできた炎症は、全く触れずにいることが出来れば自然に治ります。この自然に治るスピードを速めるのが、抗炎症効果です。
『ステロイド外用剤には強さのランクがある』ということをご存知の方は多いかと思いますが、ステロイド外用剤の『強さ』とは、『炎症を抑える強さ』と言えるでしょう。要するに、症状がひどくなるほど、ステロイドのランクが強い外用剤を使用するということになります。ステロイド外用剤の種類とランクを表(図1)にまとめましたので、ご自分が使っている薬のランクがわからないという方は参考にしていただければと思います。
ステロイド外用剤ランクについて
先にも述べましたが、私が土佐清水病院で入院した際には、ステロイドをしっかり塗った肌に、包帯を巻いていました。土佐清水病院は自由診療のため、薬も自己処方。よってどのランクのステロイドを含有した外用剤を塗っていたかはわかりませんが、当時の私の症状から考えると、少なくともⅡ群以上であったのは間違いないと思います。
さらになんのために包帯を巻いていたかというと、理由は二つ。一つは、皮膚にしっかりとステロイド外用剤を浸透させるため、もう一つ重要なのは、かき壊して出来てしまった皮膚の炎症を、さらに掻いてしまうことで悪化させないためです。触らなければ、掻かなければ炎症は自然に治るので、皮膚の炎症部分を物理的に掻けなくするための強硬措置と言えますが、掻き壊した炎症をさらに悪化させないという意味では、効果があったかと思います。
免疫抑制効果とは
もう一つは『免疫抑制効果』。この免疫抑制効果とはどういったものかを一言で説明するとすれば、それは『痒みを抑える効果』です。
まとめ
ここまでを簡単にまとめましょう。ステロイド外用剤とは、通常体内で作られる副腎皮質ホルモンである糖質コルチコイド、あるいはそれと同質のものを人工的に作り上げたものとなります。
「なるほど。ステロイドはもともと体内で作られているのか。それならば、ステロイド自体が身体にとって毒だとは思えない。では、アトピー患者はどうして強制的に外からステロイドを摂取しないとかゆみが抑えられないんのだろうか?」
さぁ、みなさんはどのように考えるでしょうか。ぜひ、ここでも一度自分なりの論理を展開して見てください。
ちなみに、私はこう考えました。
「アトピー性皮膚炎の患者は、何らかの理由により副腎の機能が低下しており、通常の人と比べて副腎皮質ホルモンの分泌量が足りていないのではないだろうか。外から摂取することによって症状が落ち着くということは、そういうことなのではないか。仮に通常の人が100個の副腎皮質ホルモンを分泌することで肌を正常に保てるのだとすれば、私は現在50個しか分泌できない。だから、足りない50個を外側から摂取することで、症状を抑えることができているのではないだろうか。」
ここでまた一つ疑問が浮かびました。
「だとすると、体内で作られているステロイドを外用することによる副作用って、一体なんだ?」