データの嘘を見破る方法
以上3つの例を挙げさせていただきましたが、読者の皆様はどのように感じましたでしょうか。ここに挙げたのは、氷山の一角どころか人ゴミのウォーリー並みにごく一部の例ですが、いかに政府やメディアがあの手この手を駆使して、みなさんを操ろうとしているかを感じていただけたかと思います。
では、どのように溢れる嘘を見破ればいいかといえば、これはもう意識して、注意してテレビや新聞、インターネットという情報に触れるということに尽きるのですが、その際に気をつけるべき『統計のウソを見破る5つのカギ』というものが存在します。私自身、データを見るときは常にこの5つを意識するようにしています。
この5つのカギは、統計を学ぶ際の基本文献の一つとして挙げられる『統計でウソをつく法 〜数式を使わない統計学入門〜 ダレル・ハフ著』にまとめられているものです。原著は半世紀以上前、1954年に出版されたいわゆる古典ですが、現在でも増刷が続いており、読み物としてもわかりやすくて面白いベストセラー作品ですので、興味のある方は一度手に取っていただければと思います。この本にまとめられている5つのカギは以下の通り。
統計でウソをつく法 〜数式を使わない統計学入門〜/ダレル・ハフ著
嘘を見破る5つのカギ
1.誰がそう言っているのか?(統計の出所に注意)
2.どういう方法でわかったのか?(調査方法に注意)
3.足りないデータはないか?(隠されている資料に注意)
4.言っている事が違ってやしないか?(問題のすり替えに注意)
5.意味があるかしら?(どこかおかしくないか?)
以上5点です。この5点を踏まえ、先にあげた3つのケースについて検証を行ってみましょう。
未成年の強盗検挙件数のケース
まずは、『未成年の強盗検挙件数』についての図2のグラフについて。カギ1の『誰がそう言っているのか?(統計の出所に注意)』ですが、このグラフの統計の出所は警察庁ですので、今回は問題ありません(この出所が問題となるケースももちろんありますので、これについてはのちに詳述します)。
次に、カギ2の『どういう方法でわかったのか?(調査方法に注意)』ですが、これは実際の検挙された件数ですので、これも問題なさそうです。
重要ポイント①
カギ3『足りないデータはないか?(隠されている資料に注意)』、このケースでは、ここが最重要ポイントです。私は意図して、データで使用した1975年〜2003年前後の年数のデータを排除して隠しています。つまり、このデータを見たときに、「この前後の年数はどうなっているんだ?」とまず疑うべきなのです。
そして、カギ4『言っていることが違ってやしないか?(問題のすり替えに注意)』ですが、これについては、結果的に私は違うことを言っている(そう思わせるように誘導している)のですが、図2と私の言い分には論理的な整合性が取れているため、今回はここが問題ではありません。
重要ポイント②
最後に、カギ5の『意味があるかしら?(どこかおかしくないか?)』ですが、これが今回二つめの重要ポイントです。通常考えにくい大幅なグラフの急上昇や急降下に対しては、やはり『どこかおかしい』と疑うべきです。
それが法規制や税制、裁判制度等の変化、『政治的要因(Politics)』によるものなのか、景気や物価、金利等『経済的要因(Economics)によるものなのか、あるいは人口動態の変化、世論や流行、自然災害などの『社会的要因(Society)』によるものなのか、そして、新技術の普及(スマートフォンや自動運転技術等、このケースに当てはめると、街中に設置された防犯カメラの量が急増した)等『技術的要因(Technology)』の変化が影響しているのか。
以上4つの要因は、それぞれの頭文字をとって『PEST分析』と呼ばれ、それぞれの外部環境要因が自社の経営にどのような影響を及ぼすかを漏れなく検討するために、企業経営の経営戦略策定のために使われるフレームワークですが、このように統計のウソを見抜くために活用する事ができます。このケースでいえば、まさに【少年非行総合対策推進要綱の制定】という法規制の変化(政治的要因)が、グラフの急上昇を生み出していると見抜く事ができるわけです。
このように、カギ3「他の年代はどうなっているんだ?」→「過去の方がはるかに多いじゃないか!」、カギ5「この急上昇はおかしくないか?何か理由があるんじゃないのか?」→「法規制の変化がモロに影響してるじゃないか!」となり、「未成年の凶悪犯罪の増加に、バブル崩壊もインターネットやゲームも、何の関係性もないじゃないか!ウソをつくな!」と見抜く事ができるわけです。
朝日新聞のケース
続いて、二つ目のケース『靖国参拝問題』についてのアンケートを見ていきましょう。まず、カギ1の『誰がそう言っているのか』ですが、それは『国民』なので問題なし。もちろん、結果に違和感がある場合は、国民と一括りに言っても、年代や出生、居住地、性別や特性(例えば、朝日新聞購読者に対するアンケートだと、リベラル、極左、現政権批判という特性を持つ可能性が高くなる)等も考慮に入れ検討する必要があります。
続いて、カギ2の『方法』ですが、恐らく新聞記事には、どういった方を対象に取ったアンケートかを明記していたと予想されますが、アンケートの内容だけでは『アンケート式』ということしかわかりません。しかし、これには特に問題がなさそうです。
カギ3については、足りないデータもないですし、結果から考えて隠していることもなさそうだと判断できます。
重要ポイント
そして、このケースのポイントはカギ4と5です。そもそも選択肢の言葉自体が奇妙(高度?なすり替え)ですし、「こんなよくわからない選択肢にする事になんの意味があるのだろう」と考えれば、結果から考えて「あ、反対多数の記事が書きたかったんだな」という事を導き出す事ができるのです。
厚労省、読売新聞のケース
そして3つ目のゴミに関するケース。カギ1の出所は『環境省』。それまでの統計データから考えると無難な数字であるし、特に問題はなさそうです。
カギ2の調査方法ですが、あまり本書とは関係なく、専門的な内容が多く含まれるので、興味がある方は環境省のホームページで確認していただければと思います。先にも話した通り、統計結果の数値に特別おかしなところは見受けられないので、ここは環境省が出した結果を信頼できそうです。
カギ3と4についても、環境省が出すデータに問題はなさそうだし、言っていることも統計結果を文字にしただけのもので、おかしいところは見つからない。
そして、カギ5の『意味があるのかしら?』です。この『ゴミの総排出量が過去最高』という記事を見て、恐らく大半の人はこのように感じたはずです。
「ふ〜ん。そうかぁ」
はい。ただ統計結果を文字にしただけなので、当然といえば当然です。しかし、ここでそのまま終わってはいけません。統計結果を報告しただけの記事ですので、おかしなところが特に見つからないため、スルーしてしまいがちな記事です。
重要ポイント
しかし、一見おかしなところがなさそうに見えますが、一つ、見逃してはいけない文言があります。それは、『緊急集計』です。そこに引っかかると、「一体この調査、なぜ緊急に集計する必要があったのだろうか?」と考えられたらシメたもの。この5つ目のカギに『ガチャッ』と反応した人は、
「あ、粗大ゴミの有料化に対する反対を押さえ込むための調査、記事か」
と気づく事ができるのです。先にも述べましたが、ここで例としてあげたのは、ほんのごくごく一部です。
統計データ及び報道とは本来、『客観、中立、公正』でなければいけません。ですが、マスメディアはその発展の歴史的背景を振り返っても、多くの構造的欠陥を抱えていると言わざるを得ません。ここから少し、思考停止に陥ることの恐ろしさを伝えるという意味でも、マスメディアの構造的欠陥についてさらに深掘りしたいと思います。話が本筋とは少しそれますので、興味のない方は次章に飛んでいただいて構いません。が、ここまで興味深く読み進めることができたという読者の方には、本筋の理解をより深くさせるとともに、思考停止を防ぐ一助となる内容であると自負しておりますので、是非一読をお勧めいたします。